@DIME2022.05.28 エンタメ #マンガ

©野田サトル/集英社
2014年に『週刊ヤングジャンプ』にて連載が始まった、『ゴールデンカムイ』(著・野田サトル/集英社刊)。金塊争奪戦をテーマにしたこの作品は、連載当初から様々な反響を呼び、「第22回手塚治虫文化賞マンガ大賞」など数々の賞を受賞。テレビアニメも今年10月から第四期の放送が控え、実写映画化も決定しました。そして2022年4月28日に連載が完結。コミックスは31巻で完結とアナウンスされています。
そして同じく4月28日より、作品史上初の大規模な展覧会が東京で開催中。京都と福岡への巡回も既に決定しています。
「不死身の杉元」の異名を持つ元兵士の主人公・杉元佐一は、アイヌが隠した金塊の噂を聞きます。その後ヒグマと遭遇。ひょんなことからアイヌの少女・アシ(リ)パと出会います。戦争で失った幼なじみの妻の目を治したい思いで金塊を探し始める杉元。謎を解く鍵となる暗号は、網走監獄に収監されていた24人の囚人に刺青として彫られていました。箱館戦争で死ぬことなく、網走監獄に収監されていた土方歳三一派、そして、鶴見中尉を中心とする第七師団。金塊を狙う人々の対立が始まりますーー。
期間限定で最終回まで全話無料公開という大胆な施策を打ち出し、SNSを中心に非常に盛り上がった『ゴールデンカムイ』。「和風闇鍋ウエスタン」とも称されるこの作品は、なぜこんなにも人々を惹きつけるのでしょうか。原作ファンのライターがプレス内覧会に行ってきました。
※アシ(リ)パのリ、マタンプ(シ)のシは小文字が正式表記。
いきなり現れる、普段は国立科学博物館にいる「ヒグマ」
入場すると、まず第1ゾーン「金塊争奪戦の開幕」が始まります。主人公・杉元佐一とアイヌの少女・アシ(リ)パの紹介からスタート。杉元のかぶっている軍帽やアシ(リ)パの持つマキリ(アイヌの小刀)、といった作中に登場したもののもモデルとなった資料に加え、ヒグマのはく製が鎮座しています。二人が出会うきっかけにもなり、ある意味、作品のひとつの要の存在です。
国立科学博物館の所蔵品であるこのヒグマは、はく製だとわかっていても迫力がすごく、一瞬ビクッとしました。作中で杉元たちは何度もヒグマと遭遇し、時に倒してもいるのですが…この獰猛な動物が目の前にいて立ち向かうことを想像するだけで凄すぎます。その大きをぜひ、会場で感じてみて欲しいです。
作者の所蔵する資料がこんなにもあったとは
『ゴールデンカムイ』は、明治時代の文化、アイヌの人々の生活の様子、狩猟の様子などを綿密に描いた作品です。丹念な取材と徹底した資料収集に裏打ちされていることは、コミックスの巻末にずらりと並ぶ参考資料や言語監修担当者からもわかります。今回の展覧会では作者が所蔵する資料の一部を公開しています。
杉元同様に金塊を探す土方歳三一派、第七師団の人々、それぞれが着ている軍服、アイヌの人々の民族衣装や装飾品、道具などは、作中に登場したもののモデルとなった資料やそれに近い資料を参考に描かれています。
飯盒や軍帽などの持ち物や、銃剣などの武器まで、それぞれのキャラクター紹介に合わせて資料を展示。写植済のイラストと見比べることができます。
作中でどれだけ細かく精緻に描かれているのかが、より一層伝わってきます。
作中に登場するアイヌ刺繍のマタンプ(シ)(額に巻く鉢巻)、アイヌ紋様のマキリなども、資料を見ることができます。とても細やかで丁寧に縫われている刺繍に、不器用な私はびっくり。独自の紋様がとても美しいのです。
金塊の暗号と個性あふれる24人の囚人たち
第2ゾーン「24人の刺青囚人」は、作品の重要なカギである、金塊のありかを示す暗号が彫られた囚人たちの圧倒的な個性にフィーチャー。網走監獄をイメージした入り口をくぐると、強烈なキャラクターたちの、変(変態)で、残虐で、人間臭い、どこか不思議な魅力が展示されています。
モデルになった人物の情報などもあり、作品にどう活かされたかを見るのもまた面白いですよ。
命と文化と生きること
第3ゾーンでは、杉元たちが食べてきた数々のおいしいグルメ(動物の脳みそを含む)、北の大自然の中の暮らしや、日露戦争後の歴史背景、作中に登場した少数民族などの資料展示が「命を繋ぐものたち」という題で展示されています。
アイヌ、そして樺太への旅で登場する「ニヴフ」や「ウイルタ」、少数民族の文化の違いや独自性について、『ゴールデンカムイ』を通じて、初めて触れた読者も多かったのではないでしょうか。
インターネットがなかった時代、漫画は知らない世界への大きな入り口でした。そこから自分で調べることで知恵や知識が身につく、という流れがあったと思います。なぜアイヌが今少数民族となっているのか、立ち止まり考えてみることも大切ではないでしょうか。
この作品はコミカルなギャグやストーリーテリングの巧みさ、そしてぶっ飛んだキャラクターたちが特徴で魅力ともなっています。しかし、そうした「知らない人が多いもの」「忘れ去られる危険性のあるもの」を丁寧に描写している点も、国内外で高い評価を受け、支持されている大きな理由でしょう。
また、我々は命をいただくことで生きながらえている、ということも、改めて感じるこの第3ゾーン。「いただきます」の習慣は忘れてはいけないなと思いました。
美麗カラーイラストも展示!キャラクターと作者、そして読者が歩んだ道のり
後半は、杉元たちが歩んできた道のりが大きなパネルで展示されている第4ゾーン「それぞれの役目」。主人公杉元たち、第七師団、そして、土方歳三を中心とした一派の対立は時に敵味方入り乱れます。それぞれが利益、そして自分の役目や生き方を模索する作品でもあり、その複雑さも、面白さのひとつです。
第5ゾーン「黄金色名画廊」では、コミックス表紙やカラー扉などで描かれた、50点以上の美しいカラーイラストが集結。その迫力は圧巻です。ファンは「これはあの時のだ」とピンと来るのではないでしょうか。
第6ゾーン「そして未来へ」では、物語終盤の疾風怒濤の展開が展示されています。最後の展示には、まさに『ゴールデンカムイ』だ!となりますよ。
グッズも大充実!まだまだ『ゴールデンカムイ』から目が離せない!
展覧会の公式図録をはじめ、グッズも90点以上が展開。「尾形の棒鱈ポーチ」「第七師団のお風呂セット」など、作品の個性を活かした独創性あふれるグッズは、発表されるたびに話題になりました。また、火曜日と木曜日の16時以降に来場した方にはお面をプレゼントする「鶴見中尉ナイト」(火曜日)、「脱獄王 白石由竹ナイト」(木曜日)も開催。(※「鶴見中尉ナイト」は鶴見中尉または鯉登少尉のお面をランダムで配布)
全国巡回、アニメに映画化にと控えている『ゴールデンカムイ』。この展覧会で、リアルに基づいた丁寧な描写や緻密なストーリー、美しいイラストなど、ヒットの秘密がたくさん詰まっていることを改めて感じました。作品が完結しても、まだまだ目が離せません!
ゴールデンカムイ展
開催中~2022年6月26日(日)
東京ドームシティ Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)
https://goldenkamuy-ex.com
※本展覧会はコミックス既刊以降の物語も展示します。アニメ化されていないストーリーも含まれますので、あらかじめご了承のうえ、ご来場ください。
取材・文/宇野なおみ
https://dime.jp/genre/1385849/