昨日の夕方、うれしいお客さんがいらっしゃいました。昨年11月に遠路、埼玉県から来て下さったAさんです。Aさんの事は丸い石がお好きだったので良く憶えており、再度のご来店をうれしく思いました。
雪の少ない今年の金沢の話で御挨拶をした後、Aさんはさっそく店の石を見始めました。2度目のご来店です。Aさんはシューケースの中の石はもちろんの事、コンテナに積んである石やダンボールに入れてある石など、一通りご覧になられました。最初のご来店からそれほど期間を置いていないせいか、見まわる速度は速かったように思えました。私はAさんが丸い石好きだと分かっていましたので、珍しい球状の正長石を出してみました。
MARBLE TANK PIMA CO.AZ. 正長石(Orthoclase)
その正長石は長石であるにもかかわらず、丸くなっており、地球のミニチュアのような雰囲気があります。地球の海の水をなくしてしまうと、プレートの境目が見えてくると思いますが、表面にある筋状の線が中央海嶺のように見えてしまうのが面白いと思います。
そのような話をきっかけにカウンターの内側にある石も見たいという話になり、まだ店頭に出していない石もお見せしました。Aさんはどうも初めて来た時にチョイ見した石を探しにいらっしゃたような話をされました。どうりで探し物をしているような雰囲気だったのです。
その石は台湾産の丸い拳大の霰石だったという話をされましたが、私はそのような石の記憶はありません。Aさんはその石が気になって再度訪れた、という話なので、店頭に出していない奥の石もほとんどお見せしましたが、そのような石は中々見つかりませんでした。それから霰石を集めた箱の中も探しましたが、見つかりませんでした。
「石の華」の多くの石達は元々は私のコレクションだったものなので、大半の石は分かります。探している石はAさんの記憶違いの可能性もある、と思いました。他の石だった可能性もある、と思いました。すると、Aさんは国産の石のコレクターである、という事と例外的に台湾産も国産としてみている、という話も出て来ました。
「石の華」には台湾産の石はそれほど多くはありません。もしかすると、売れてしまった石の可能性もある、と思い、昨年の売上帳で台湾というワードで検索してみました。すると、台湾産の棒状霰石がAさんのご来店の10日後に売れていました。それは恐らく鍾乳石のように成長したと思われる赤茶けて先端が丸くなっている棒状の霰石でした。その石のサイズや表面の質感の話をして、その石に間違いない事が確認できました。
残念な事ですが、その石は売れてしまっていました。Aさんはその石の事が忘れられず、夢にまで見たそうで、わざわざ再度ご来店して下さったのです。私はその持ち主は分かっていますので、持ち主に事情をお話しして、写真を撮らせてもらって、写真を送ります、というお話をしました。
その石はAさんの頭の中では丸い石に変身して、サイズも大きくなっていたようです。イメージの中で石は成長するようです。「逃した魚は大きい」ならぬ「逃がした石は大きい」でしょうか。
売れてしまった事が分かり、Aさんは「スッキリしました。」とおっしゃいました。さらに「その石に選ばれなかった。」ともおっしゃいました。私も同じような経験が過去に何度もありました。まさしく「石が選ぶ」なのです。今思うに、即決できなくて縁のなかった石はいくつもありました。石との出会いは一期一会なのだと思います。Aさんはそういう事を理解できる方でした。
そして、面白いと思った事は、石は人のイメージの中で成長し変身する、という事です。実際の石は成長したり変身する事はあり得ませんが、人のイメージの中では、成長は続いているのです。それが夢にまで出てくる、という事は何となく意味深い現象のように思えました。
せっかく遠くからいらっしゃったAさん、その日は福井・赤谷産の丸い自然砒(金平糖石)の良品をお買い上げになられました。ありがとうございました。