語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【保健】ガン=生存時代の就労支援 ~治療と仕事の両立に指針~

2016年04月19日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)2016年初頭、全国がん(成人病)センター協議会加盟16施設の治療成績をまとめた「がんの10年生存率」が公表された。
 全部位、全ステージ(病期)をまるめた生存率は58.8%。例を大腸癌にとると、
   転移がない早期なら98.8~84.4%
   リンパ節転移がある進行癌でも69.6%
が10年を乗り切っている。

 (2)発生部位や診断時の病期にもよるが、進行が比較的遅い大腸癌や乳癌については「癌=死」という認識を改める頃合いだろう。
 「癌=生存」という事実は、治療中~治療後の生活設計や就労計画が必要だ、ということだ。実は、新規に癌と診断される3人に1人は、20~60歳の生産年齢なのだ。

 (3)ところが、2015年、内閣府が成人(20代以上)を対照に行った世論調査によると、「2週間に1度ほど通院する必要がある場合、働き続けられると思うか」との設問に対し、
   「どちらかといえば、そう思わない」
   「そう思わない」
という回答が3分の2を超えた。
 特に乳癌の好発年齢である40代の女性では、76.7%が治療が始まったら「働き続けられない」と考えていることが分かっている。
 
 (4)乳癌の10年生存率は、
   早期 93.5%
   Ⅱ期(脇の下のリンパ節転移を認める) 85.5%
   Ⅲ期 53.8%
と高い。この間、仕事を失うことは治療費の問題だけではなく、社会との絆や自己効力感の喪失を招きかねない。

 (5)「癌でも働きたい」との悲痛な声を受け、厚生労働省は2016年2月、企業向けに癌患者が仕事と治療を両立できるよう支援するガイドライン(指針)を公表した。
 指針では、
 <例>午前注に放射線を受け、午後出勤に対応できる時間単位の有休休暇制や時差出勤の在り方、企業側から主治医に意見を求める際の書面のひな型が示されている。
 いわゆる「私傷病」の取り扱いは各社の就業規則に委ねられている。指針に拘束力はない。
 しかし、3人に1人が癌に罹患する時代に、癌患者を安易に切り捨てるのは時代錯誤だ。
 癌と共に生きる社会に何が必要か。皆で考える時が来た。

□井出ゆきえ(医学ライター)「がん=生存時代の就労を支援 治療と仕事の両立に指針 ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.2~」(「週刊ダイヤモンド」2016年4月16日号)
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【労働】非正規社員の給料水準を頭打ちする「そこそこスキルアップ」という考え方

2016年04月19日 | 社会
 (1)東京都「中小企業の賃金事情調査」(対象:従業員10人以上300人未満の都内中小企業)によれば、2015年の正社員の賃金(大卒やモデル賃金【注1】)は、
   ①初任給:月給204,134円(時給1,276円)【注2】
     ※【参考】2015年の高卒の初任給:月給176,222円(時給1,101円)
   ②30歳:月給275,002円(時給1,719円)
   ③40歳:月給359,040円(時給2,244円)
   ④50歳:月給432,796円(時給2,705円)
   ⑤60歳:月給455,309円(時給2,846円)
 他方、派遣社員の場合、
   全年齢 時給1,683円

 (2)非正規社員(アルバイト・パート・契約社員・派遣社員)の給料は、正規社員と比べてどれほど安いのか。
 (1)が意味することは、勤続8年で時給が443円アップするということだ。
 非正規社員の中で時給水準が高いのは派遣社員だ。リクルートの派遣求人サイトで「東京23区内」「全職種」で求人検索してみると、平均時給は1,683円。派遣社員の賃金水準が高いといっても、実際には正社員30歳のモデル賃金より安い。
 その後も差は広がる。 
 正社員は、平均すると毎年41円時給がアップする。
 非正規社員は、数年勤めてやっと時給が50円アップするのが関の山だ。
 非正規社員の賃金問題は、給料が正規社員より安いことだけでなく、上がらないことも問題なのだ。

 (3)では、なぜ非正規社員の時給がなかなか上がらないのか?
 そして、なぜ会社が非正規社員を増やすことができたのか?

 (4)終身雇用の正社員が中心だった時代の日本は、高度経済成長期だ。経済発展とともに、従業員にもスキルアップしてもらわないと、会社が成り立たなかった。そのため、従業員はスキルアップし続け、会社もそれを求めていたので、給料も上がり続けた。
 しかし、経済成熟期に入り、長く不況が続いた。
 さらに、ITの発展でマニュアル化、効率化が進み、知識・経験をさほど積まなくてもこなせてしまう業務も増えた。
 <例>事務分野。入力する箇所さえ間違えなければ、システムが自動的に計算する。覚えることも少なく、早く結果を出せるようになっている。
 こうした状況で会社がスキルアップし続けて欲しい従業員は、特定の業務に就く人だけ。あとの人は、決められたマニュアルやシステムに従って業務をこなせるまでそこそこスキルアップしてくれるだけでいい・・・・。
 これが会社の本音だ。  

 (5)この「スキルアップはそこそこでよい」業務の人材として雇っているのが非正規社員だ。
 多くのスキルアップを求めない代わりに、時給水準も低く、給料アップも頭打ちというわけだ。
 つまり、非正規社員の給料水準を上げて「同一労働・同一賃金」を実現するのは、スキルアップし続けることが必要な業務が今よりも増えることが前提となる。

 【注1】普通の能力と成績で勤務した場合。 
 【注2】1日8時間労働、1月の平均労働日数は20日(土・日・祝日・盆・年末年始は休日)の会社の所定労働時間は160時間/月。以下、同じ。

□稲毛由佳(社会保険労務士)「非正規社員の給料水準を頭打ちする「そこそこスキルアップ」という考え方」(「週刊金曜日」2016年4月8日号)
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