語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【メディア】安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~停波問題~

2016年04月05日 | 社会
 (1)メディアの政権批判に対する安倍政権の不寛容は、ここ数年顕著になっている。毎月のように閣僚や与党議員から問題発言が飛び出している。
 海外メディアの論調が変わりつつある。大手海外メディアでさえも、このような憂慮すべき傾向を認識するようになっている。
 安倍政権のニュースメディアに対する威嚇に対し、海外から批判がたかまっており、その言葉づかいも激しさを増している。これはかなり異例のことだ。

 (2)米国の主要紙の紙面は、全世界の出来事に焦点を当てている。最近では、シリアなどの国での悲惨な暴力、欧州の難民危機、世界経済の低迷、ドナルド・トランプ氏の大統領選挙運動における「米国型ファシズム」の台頭などが見出しを飾っている。
 それに比べて、比較的平和で豊かな日本のニュースが注目を集めるのは難しい。
 だが、実際、米国や英国の主要紙のほとんどが、安倍晋三・首相のメディア対策にスペースを割いているのだ。
 <例1>2016年3月5日付け「ワシントン・ポスト」電子版。
 同紙は、「ニューヨーク・タイムズ」と並んで米国の二大高級紙の一つとみなされている。
 「抑圧される日本の政権批判報道」と題した同紙の社説は、安倍首相のメディア対策に対し、明らかに反対の立場を示している。ただし、若干手加減して痛烈な非難は控えている。
 同紙は、安倍政権の戦争法と日本の再軍備化の方向に賛同したことから政権寄りと目されたが、それでも以下のように断言している。
 <それにもかかわらず、日本が第二次世界大戦後、最も誇るべきなのは経済の「奇跡」ではなく、メディアの独立性を含む自由主義制度の確立であった。安倍氏の掲げる目標がたとえ立派なものであっても、そのような自由を犠牲にして追求すべきではない>

 (3)<例2>2016年2月17日付け「ガーディアン」電子版。 
 同紙は、英国の主要紙。ジャスティン・マッカリー氏による記事は、安倍政権のメディア対策をもっと徹底して批判している。
 記事は、安倍首相とその同僚の問題発言と行動の数々を紹介しているが、その主眼は古館伊一郎氏、国谷裕子氏、岸井成格氏の3人のニュースキャスターの降板にある。
 <3氏が夜の報道番組を間もなく降板することは、ジャーナリストという職業にとって損失であるだけではない。3氏は、メディアに苛立ちを強める安倍晋三・首相とその支持者によるメディア弾圧によって降板させられたとの批判がある>
 安倍政権が3氏を狙い撃ちにしたのは、
 <3人とも皆、権力の濫用から公益を守るというジャーナリズムの使命を信じていた>
からだ、と同記事は示唆している。

 (4)未来に目を向けると、二つのシナリオが考えられるだろう。
  (a)国際的批判の高まりを受けて、日本のメディアが盛り返し、民主主義における自らの役割をよりよく果たせるようになる。
  (b)右翼主義者が勢いづき、現在のソフトな脅しからあからさまな抑圧へとシフトする。
 (b)の、暗い未来の格好の例が、エルドアン・トルコ大統領の卑劣な政権批判抑圧だ。

□マイケル・ペン「安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~マイケル・ペンのペンと剣~」(「週刊金曜日」2016年4月1日号)
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 【参考】
【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~
【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~
【メディア】高市総務相は「脅し」の政治家、報道は「健忘症」
【メディア】総務大臣には、停波命じる資格はない ~放送電波停止発言~ 
【メディア】や高市発言にみる安倍政権の「表現の自由」軽視
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
【メディア】政治的公平とは何か ~「NEWS23」への的外れな攻撃~
【NHK】をまたもや呼びつけた自民党 ~メディア規制~
【テレビ】に対する政権の圧力(2) ~テレ朝問題(9)~
【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~
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【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~

2016年04月05日 | 社会
 (1)1995年にTBS「オウム」ビデオ問題が起きた時、同局の幹部や社員は、
 「5年ごとに更新の放送免許を取り上げられたら、会社は一日でつぶれる。電波停止(停波)は死刑宣告と同じ」
と怯えていた。

 (2)放送事業の許認可権を持つ総務相が、国会で放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条に基づいて停波を命じる可能性をたびたび発言している。その総務相は、NHKの日本軍慰安婦番組を検閲した安倍晋三・首相に近い高市早苗氏だ。
 参院選を前に、現場が萎縮しないわけがない。
 高市発言は、2月8日の衆院予算委員会で始まり、「放送法4条は法規範性を持つ」として、「一つの番組での公平性も問われる」という違憲の法解釈が同月12日には政府見解になった。【注1】

 (3)高市発言は、放送法4条違反を停波の根拠として持ち出しているのだが、福井照・自民党報道局長が2014年11月26日(総選挙前)に「報道ステーション」(テレビ朝日)のプロデューサー宛に送った文書(公正な報道を求める、云々)の中で、放送法4条に言及していた。
 この文書の写は、『テレビ現場からの告発! 安倍政治と言論統制』((株)金曜日、2016年3月)に掲載されている。
 文書は、11月24日放送の「報ステ」に関し、「アベノミクスの効果が、大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく」断定する内容と述べ、賃上げ率などの数字を挙げて反論。「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにしなければならないとされている放送法4条4号の規定に照らし、特殊な事例をいたらずらに強調した」と述べ、「公平中立な番組作成」を求めている。
 
 (4)放送法4条を根拠としての番組批判は、「放送法遵守を求める視聴者の会」が2015年11月に「読売」「産経」に掲載したTBS「NEWS23」の岸井成格・キャスター攻撃の意見広告にも重なる。【注2】
 
 (5)テレ朝広報部は、「文書を受領したことは事実。番組では、日ごろから公正中立を旨としており、特定の個人からの意見に左右されない」と話している。

 (6)生稲誠・自民党報道局職員は、「あの報ステは見過ごせないほどひどい内容だったので、やんわりと文書で言った。テレ朝から回答があった」と話した。

 (7)高市氏と安倍首相が、国会で、民主党政権でも平岡秀夫・総務副大臣が同じ内容の答弁をしているとして、「行政の継続性」を強調しているのは問題だ。
 平岡秀夫・元総務副大臣/元法相/現・弁護士は、3月25日、
 「私の答弁は、業務停止命令を行うことができるが、『極めて限定的な状況で、極めて慎重な配慮のもと運用すべきだ』というものだった。放送界の自律に任せるべきだという趣旨で、やるぞ、やるぞと脅す高市氏とは真逆だ。報道への政治的圧力を正当化するために放送法4条を持ち出そうとしている姿勢こそ批判されるべきだ」
と述べた。

 【注1】記事「(Media Times)「放送法とは」議論に熱 総務相の「停波」発言めぐり」(朝日新聞デジタル 2016年4月2日)
 【注2】金平茂紀/聞き手:豊秀一(編集委員)「テレビ報道、強まる同調圧力 金平キャスターが語るいま
(朝日新聞デジタル 2016年3月30日)

□浅野健一(同志社大学大学院教授)「自民党のテレ朝への圧力が契機に」(「週刊金曜日」2016年4月1日号)
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