語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【地方】財政破綻から10年目の夕張 ~「一億総活躍」の近未来~

2016年04月16日 | 社会
 (1)2016年3月、日本で唯一の財政再建団体、夕張市は、財政破綻から10年目を迎えた。
 1990年代、国のエネルギー政策の転換と炭鉱事故の中で、夕張市の経済の柱だった炭坑も閉鎖した。「炭坑から観光へ」を掲げ、過大な観光投資に打って出た夕張市は、2007年、巨額の財政赤字を抱えて財政破綻した。
 小泉政権以降の「小さな政府」「自己責任」の流れの中で、市民はその返済を一身に負った。毎秒67円ずつ2026年度まで続く返済のため、税は引き上げられ、公共サービスは引き下げられ、国の承認がないと新しい政策を立てられない管理状態に置かれた。

 (2)破綻を招いた観光業への転身は、実は当時の通産省(現・経産省)がレーガン政権下の米国にならい、製造業空洞化への対抗策として強力に推進したものだった。借金による過剰投資のおかげで、夕張市は一瞬、通産省の成功モデルとなった。その挙げ句の果てが財政破綻で、次には財政を切り詰めない自治体への懲罰モデルとなった。
 地域再生の頭脳ともいえる市役所の職員が半分に削られ、賃金の大幅カットで生活が維持できず、市外へ転職する職員も増えた。
 公務員の顧客の減少が、商店の閉店を一段と促した。
 温水プールや美術館も、雪下ろしに手が回らない中、雪の重みでつぶれた。かくして、再生へ向けた資源となり得た公共施設が消えていった。
 
 (3)明るい要素もある。
 夕張市を支えようと、市外から「よそ者」「若者」が集まる。
 鈴木直道・市長、30代、元都職員が奔走し、炭坑住宅や炭坑史跡を生かしたまちおこしや、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に取り組む若い世代も目立つ。
 新千歳空港、苫小牧港に近い利便性が着目され、シチズンやツムラなど大手企業も進出している。

 (4)一方では、公共サービスの低下に不安を抱く子育て世代は流出を続け、ピークの1960年に11万人だった人口は1万人を切った。
 少子化率、高齢化率は日本一だ。
 働き盛りが少なく、進出企業の労働力は近隣自治体頼み。これでは市の経済活性化に直結しない。

 (5)経費削減の中、
  (a)公衆トイレの一部は、「ネーミングライツ」方式(企業がスポンサー)となった。
  (b)地域の集会場は、町内会が「指定管理者」になった。支えるのは高齢者が大半を占める地域のボランティア活動だ。

 (6)だが、「民間の知恵と工夫」で基本的な生活条件は守ろうと奮闘してきた(5)-(b)の彼らにも9年間のボランティア疲れが広がる。
 公共サービスを住民が懸命の無償活動で埋める姿は、安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」の近未来図だ。
 地域に必要なのは、「希望出生率」のような目標設定ではない。
 働いて生きるためのインフラ整備だ。
 10年目の夕張市は、生活への公的資金を削り、新幹線や軍備などの「国力」へ回しているアベノミクスへの警鐘だ。

□竹信三恵子「財政破綻から10年目の夕張に「一億総活躍」の近未来が見える ~経済私考~」(「週刊金曜日」2016年月8日号)
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