森光子、船越英二がいとなむ五反田の銭湯「松の湯」。従業員の沢田雅美や岡本信人とともに、いかにもTBSらしい人情ドラマが展開される……はずだったのである。当初の脚本家は橋田壽賀子。
ところが、TBSの社員ディレクターだった久世光彦はその予定調和に満足できなかった。人情ドラマの枠組みはそのままに、沢田と岡本を蹴散らし、従業員役にスパイダースのボーカルだった堺正章と、新劇人だった樹木希林(当時は悠木千帆)をひっぱってきた。
彼らとからむ「隣のマリちゃん」に天地真理(第二シリーズ)、堺、樹木と「トリオ・ザ・銭湯」を組むお手伝いのミヨちゃんに浅田美代子を起用(第三シリーズ)してブレイクさせたのもこのドラマだ。
後期のメインライターになる向田邦子が描くドラマは上質だったはずだが、子どもだったわたしの印象に残っているのはどうしたってマチャアキを中心にしたギャグシーンだった。
わたしが忘れられないのはトリオ・ザ・銭湯のこんな場面。長男夫婦(松山英太郎・松原智恵子)にようやく子どもができたらしいという話になり……
健ちゃん(堺)「よかったねえ」
浜さん(樹木)「んー。でもねぇ、これをちょっと見てよ」
と、松の湯の面々の生活時間帯を描いたフリップを持ち出す(この時点ですでに不条理なのだが)。
健ちゃん「……?」
浜さん「ね?この夫婦、生活時間がずれてんのよ」
健ちゃん「てことは、いつ子どもをつくったわけ?」
浜さん「健ちゃん、あんた……」
健ちゃん「な、何いってんだよ!オレじゃないよー!」
もめる二人。そこへいきなり
お手伝いのミヨちゃん「すいません実はあたしですっ!」
健・浜「ばかばかしくてやってらんねーや」と退場。
間(ま)をいかした切れ味するどい演出もあって「時間ですよ」の視聴率はうなぎのぼりとなった……以下次号。
参考テキストは画像の「『時間ですよ』をつくった男」(加藤義彦)