PART1はこちら。
マット・スカダーのシリーズはこれまでに16作刊行されている。以下はネットからひっぱった著作リストだ。原題がまたすてきなのである。
過去からの弔鐘The Sins of the Fathers 1976
冬を怖れた女In the Midst of Death 1976
一ドル銀貨の遺言Time to Murder And Create 1977
暗闇にひと突きA Stab In the Dark 1981
八百万の死にざまEight Million Ways to Die 1982
聖なる酒場の挽歌When the Sacred Ginmill Closes 1986
慈悲深い死Out On the Cutting Edge 1989
墓場への切符A Ticket to the Boneyard 1990
倒錯の舞踏A Dance At the Slaughterhouse 1991
獣たちの墓A Walk Among the Tombstones 1992
死者との誓いThe Devil Knows You’re Dead 1993
死者の長い列A Long Line of Dead Men 1994
処刑宣告Even the Wicked 1996
皆殺しEverybody Dies 1998
死への祈りHope to Die 2001
すべては死にゆくAll The Flowers Are Dying 2006
……調べてみて初めてわかったのだけれど、このシリーズ、最初は売れなかったのだという。それが「暗闇にひと突き」と「八百万の死にざま」(86年、監督ハル・アシュビー、主演ジェフ・ブリッジス、ロザンナ・アークェットで映画化されている。800万というのはニューヨークの人口のことです~「この腐りきった、くそ溜めみたいな市(まち)に何があるのかわかるかね?何があるのか?八百万の死にざまがあるのさ」~)の成功によって書き継がれ、ブロックはとうに終了させようとしたにもかかわらず、現在もつづいている。
さて、スカダーとはこんな男だ。
かつてニューヨーク市警の警官だったスカダーは、犯人を追う途中で跳弾のために少女を死なせてしまう。警察を辞め、妻子とも別れた彼は、次第に酒に溺れるようになってしまう……この、アルコールとのたたかいがシリーズの基調音。AA(Alcoholic Anonymous……ピクサーの「ファインディング・ニモ」で、鮫たちが血を我慢するために語り合っていたのはこの集会のパロディ)と呼ばれるアルコール依存症自主治療協会の存在など、スカダーを読まなければ吾妻ひでお(アル中失踪マンガ家)の著作まで知ることはなかっただろう。
スカダーの断酒は、何度も失敗しながら現在も継続中であり、高級娼婦だったエレインとの恋愛に物語はシフトしている。浮かび上がってくるのはニューヨークという都会のナマの姿だ。以下次号。