ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
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バリエーションルートに思うこと

2018年08月11日 23時08分36秒 | Weblog
7月下旬、今年も懲りずに劔岳へと足をのばした。
今年のルートは一年前から計画していたルートであり、「いよいよか。一年は長かった。」としみじみ思えた。

予定では『剱沢テン場→剱沢雪渓→長治郎の出会い→長治郎谷→熊の岩→右俣→池ノ谷乗越→池ノ谷の頭→劔岳→ヨコバイ→平蔵谷→剱沢雪渓→剱沢テン場』とした。

出発の数日前になり、雪渓の状況を確認するため剱沢警備隊派出所へ電話を入れたところ、驚くべき回答をいただくことになった。
「今年はこの猛暑で雪解けが早く、長治郎谷は入山禁止になっています。雪渓がズタズタ状態であまりにも危険なんです。もちろん佐俣も同じです。」

ガ~~~ン!!!
何ということだ。
一年間も待って、この期に及んで入山できないとは・・・。
将にトホホであった。

まさか警察の注意を無視してまで予定していたルートで臨む気はない。
「はてどうすべかぁ・・・。」
地図を持ちだしにらめっこが始まった。
「ここをこう行って、ここに出て。でもってこうすれば・・・。う~ん、でもなぁ。」

最終的に決めたルートは、先ずは別山尾根ルートでてっぺんを目指し、そこから一気に北方稜線へと突入する。
できれば池ノ谷乗越まで下り、そこから北方稜線を往復。
最後はヨコバイを越えて平蔵谷から下山するというものだ。

それでも全ルートの2/3程はバリエーションルートとなる。
さっそく同行するAM君に連絡を取り了解を得た。

コースタイムは休憩を含めて最長で12時間を予定したが、これはあくまでもすべてが順調に進んだ場合のこと。
バリエーションルートの割合が多くを占めるコースにおいては「順調」という言葉はあまりあてにできないだろう。

詳細は順次アップするが、結果から言えば9割は急遽変更したルート通りで縦走することができた。
では残った1割はと言えば・・・。
あるポイントを通過するのにあまりにも時間を要してしまい、途中で引き返さねばならなくなった。
それでも14時間近くかかってしまった。

バテた。
最後にテン場に戻った時にはもうバテバテだった。
おそらくは「熱中症」的な症状となってしまい、テントを撤収することがことのほか辛かった。
立っていることができず、膝立、或いは座り込んでの姿勢でやっと撤収作業を終えることができた。
天候に恵まれたことを恨むわけではないが、これほどまで暑さにしてやられたのは初めてのことだった。

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嘗てバリエーションルートが掲載されている書籍(ガイドブック)を探しまくったことがあった。
一冊だけ見つけることができたが、「えっ、こんな程度しか解説されていないのか」と愕然としてしまった。

ベテランの山男であれば「今更何を言うのか」と一笑に付されてしまうだろうが、今回のバリエーションルート縦走を終えてみて分かったことがある。
いや、やっと気付いたことがある。

「バリエーションルートのガイドブックなどあるはずがない。」ということだ。

劔岳を例にとるなら、劔岳のバリエーションルートは幾つかあって、単独で行けるコースであれば既に何度も縦走している。
その経験が推測の甘さを生んでしまった。
「去年あのルート、あのポイントを越せたのだから、今回も同じルートで行けばいい。」
そんなあまりにも軽率な考えが通用しないのがバリエーションルートなのだ。

当たり前のことだが、バリエーションルートは一切整備されていない。
どれほど岩雪崩が起きていようと、土砂崩れが起きていようと整備はされない。
ましてやクサリ、ボルト、鉄梯子などあろうはずもなく、ペンキマークや指標とは一切無縁のルートだ。
だから、前回通ることができたあのポイントが今回も通れる保証などどこにもないのだ。

「バリエーションルートのガイドブックなどあるはずがない。」
極めて当然の摂理である。

事実、今回のルートで最も手こずったポイントは「長治郎の頭」であった。
剱の頂上から北方稜線へと入り、先ずは長治郎のコルを目指した。
その途中で何度も落石が起きた。
自分で起こしてしまった落石も何度かあった。
「ここは3度登っているけど、下るのは初めてだ。視界に入るルートが逆だとこうも違うものなのか・・・」
そう感じながらやっとコルへと下ったが、この先の頭でかなり手こずってしまった。
去年のコースが、ポイントが通れないのだ。

見覚えのあるポイントを探し出し、「よし、ここだ。」と思って足を踏み入れてみると、崩れ落ちた砕石に行く手を阻まれた。
じゃぁ別のルートを探さねばならない。
「ここは行けそうだ。」と思い、僅かに数メートル登りかけるが、「だめだ。このポイントは登ることはできても、往復となればここを下るには危険すぎる。ここもだめだ。」
そんなポイントが幾つもあり、頭を越えるだけでかなりの時間を費やしてしまった。

本音を言えば不安の連続であった。
「何とか越せたけど、ここを戻るのか・・・戻れるだろうか・・・。」
カップラーメンを食べている時でも、常にその不安はつきまとっていた。

バリエーションルートに挑むのであれば、体力、持久力、バランス感覚、危険察知力、判断力、決断力、知識、技術、過去の経験、そして正常バイアスに絶対に陥らない平常心が必要。

あらためて思う。
そのすべてが試されるルートだった。


「長治郎のコル付近にて」