ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

猛暑の劔岳:剱沢警備隊派出所

2018年08月15日 22時23分15秒 | Weblog
やっと別山乗越にある建物が見えるポイントまで登ってきた。
「あと5分か・・・」
そう思うと足取りも軽いし、あとは下るだけだ。


画像に写っている白い壁の建物は公衆トイレ。
よく見ると、その壁に二人の人物が写っている。
近づいてから分かったことだが、ついさっき追い越していったスイス人の夫妻だ。

乗越まで登り切ると、スイス人の二人が椅子に座り休憩していた。
自分たちの方を見てニッコリ♪
すれ違いざまに「Hello」ではなく、今度は親しみを込めて「Hi♪」と声を掛けると手を挙げて「Hi♪」。
嬉しいものだ。
国は違っても山に来れば思いは同じだと思った。

何はなくとも先ずは剱を見たい。


一年ぶりに見る剱の全容。
美しい・・・唯々美しい。
今年もあの頂へと登ることができる。

ザックを下ろし少し休憩した。
スイス人夫妻のところまで行き、「明日は劔岳ですか?」と聞いた。
答えは聞くまでもないと思ったが、これから剣山荘まで行きたいのだがルートがよく分からないらしい。
奥さんが地図を持ち出しルートを教えて欲しいと言ってきたが、よく見ればその地図には剣山荘が載っていなかった。(途中で途切れてしまっていた)
はてどうしたものか・・・。
そこで自分の地図を持ってきて、現在位置と剣山荘までのルートを説明した。
自分は同じものを複数枚コピーしてきているので、その地図をあげた。
よくよく考えてみれば地図に不足があるだなんてちょっと危なっかしい二人だと思ったが、それ以上に自分の英語がよく通じたものだと驚いた。
まぁいずれにせよ地図が役に立ってくれた事が嬉しい。


「ビクトリノックス(Made In Switzerland)」のナイフを見せてくれた。


二人を見送り、軽く昼食を済ませ我々もテン場へと出発した。
40分も下ればテン場だが、標高2700m以上もある乗越が暑くてたまらない。
テン場の標高はおよそ2500mだから、現在位置よりも僅かに暑いのだろう。


チングルマと劔岳。

色とりどりのテントが見えてきたが、思っていた以上にテントの数は少ない。

すぐ横に見える雪渓に横たわりたい思いに駆られる程体中が火照っている。
「テン場の水はかなり冷たいだろうから、着いたらがぶ飲みしたいね。」
「ビールを冷やして飲みたいですけど、それは明日まで我慢します(笑)。」

やっとテン場に着いた。
どこに張ろうかと見渡したが、偶然去年と同じポイントが空いており、そこに設営することに決めた。

受付を済ませ早速設営開始。
入り口のファスナーを開ければすぐ目の前には劔岳。

なんと贅沢な設営ポイントだろうか。

湯を沸かし珈琲を飲もうということになったが、その前にどうしてもやらなければならないことがあった。
一年前に言い忘れていたお礼の言葉をどうしても伝えたかった。

一年前の8月。
北方稜線縦走の為、剱沢警備隊派出所へ立ち寄り直前の現地情報収集をした。
その時の自分はといえば、北方稜線単独行への不安ばかりが募り自信を無くしていた。
たまたま外でトレーニングをしていた警備隊の方に声を掛け、可能な限り事前に調べたルートポイントとプリントアウトした画像を見せながら危険箇所の確認をした。
「素晴らしいですね。ここまで事前に調べたんですね。」
お褒めの言葉を頂いたことは素直に嬉しいのだが、それ以上に嬉しい言葉、いや、大切な言葉を去り際に頂いた。

「大丈夫ですよ。どうぞ楽しんできてください。」

そう、本来は趣味である登山。
だから楽しむべきものなのだということをすっかり忘れてしまっていた自分だった。

その一言でどれだけ気分が楽になったことか。
危険な縦走登山であれば確かに緊張は必要だ。
しかし、必要以上に緊張することもないし、緊張感だけではかえって危ない。
良い意味での「楽しむ」ことが大切なのだ。
だからたとえ一年を経てしまっても、あの時言い忘れていたお礼をどうしても言いたかった。

派出所へ行き、その場にいた方に経緯とその時の警備隊員の話をすると、おそらくはMさんという人だろうと言われた。
時々ここ(剱沢派出所)にも来るが、現在は黒部警察の方で勤務しているということだ。
ご本人に会えなかったことは残念であるが、胸につかえていた言葉をやっと伝えることができて自分でも嬉しい。

ついでではあったが、明日の縦走予定ルートについて確認をした。
「よし、行けるぞ!」
小さく握り拳を作った。


剱沢警備隊派出所
鍛え上げられた精鋭達がここにいる。

警備隊の方々にお礼を言ってテン場へと戻った。
美味い珈琲が飲みたい。