ここから先へのルート登攀に向けてギアを変えた。
先ずはヘルメットを装着、そしてストックからピッケルへと完全冬山装備で挑む。
すぐ真上にはでかい雪庇が今にも崩れ落ちそうに発達していた。
「あれが雪崩れたらひとたまりもないなぁ。さっさと上に行こうか。」
「すごく重そうですね。早く登っちゃいましょう。」
今いるポイントからそのままトラバースし、その後に直登してもいいかなと考えた。
しかし雪庇の真下を通過するのはあまりにも危険すぎる。
やはり安全第一で、当初の予定通り雪庇の手前を登ろうと決めた。
赤岩の頭よりやや硫黄岳寄りのポイントまで一気に直登開始。
雪庇が徐々に近づいてくる。
その不気味さに気持ちが負けそうになる。
何度もふり返りAM君を確認した。
「さぁここは一気一気だ!」
膝くらいまで埋もれながらの急登攀は結構きつい。
僅かに10分足らずの急登攀だったがこの時は脚に堪えた。
稜線まで登り切り、膝に手を当てながら息を整えた。
顔を上げてみれば、目の前には硫黄岳山頂へと向かう広大な「シュカブラ」が・・・。
何て美しいのだろう。
この冬の厳しさからしか生まれてこない大自然の造形美を、何に例えればいいのだろう。
まだ十分に整っていない呼吸であるはずなのに、ため息が出そうだった。
クラスト状に固まったシュカブラの上をゆっくりと登って行く。
「カシュ! カシュ!」と一歩一歩の音が心地よい。
「ん、待てよ。シュカブラを噛むアイゼンの音が聞こえるって・・・。」
そう、風が微風なのだ。
いやはやこれには驚いた。
何度もこの季節に訪れているが、こんな微風の日があるだなんて・・・。
曇天ではあるが、八ヶ岳連峰そのものの視界はいたって良好。
アイゼンの音で気付いた微風状態に思わずニンマリとしてしまった。
ノートレースのシュカブラの上を歩く。
「ウォー! こりゃ何とも贅沢な雪山だ」
と、何度も思いながら硫黄岳山頂を目指した。
こんな贅沢で楽しい気分は久しぶりのような気がする。
だが、一つの疑問があった。
昨日下山したあの山岳部の高校生達は、どこを通って鉱泉小屋まで、或いは硫黄岳まで行ったのだろうか。
昨夜から今日にかけては降雪は無かったし、いくらこれだけ幅の広いシュカブラルートとはいえ、一本のトレースも見かけないのは不思議だった。
「まぁいいか」
南を見れば、昨日登った赤岳と、これから縦走する横岳がくっきりと目視できた。
そして、北を見ればこれまた感動的な景色が・・・。
北アルプスである。
右に赤岳、左に北アルプス。
「たまんないね。ずっとこの景色を見ていたいくらいだなぁ。」
「すごいです。これ一生の思い出になります。」
AM君の一言は自分にも嬉しかった。
彼を連れてきて良かったと改めて思った。
夏山には夏山の素晴らしさがあり、雪山には雪山にしかない美しさがある。
どちらも甲乙つけがたいのだが、どちらか一つを選べと言われれば、僅差で雪山に軍配は上がる。
夏山以上に苦労をして登り、その甲斐あってこそ見ることができる厳しさの中から生まれる美しさ。
過去には命の危険にさらされることもあったが、それでもほんの数回は今日のようなご褒美がもらえるのだ。
少し雪庇に近づきすぎたが、もうすぐ硫黄岳山頂だ。
つい一月前、ちょうどこのあたりで風速30mの猛烈な風に何度も体ごと吹き飛ばされていたことが嘘のようだ。
ありがたい・・・。
今日のこの微風は本当にありがたい。
休憩をする時でも、風を気にせずゆっくりと行動食を摂ることができる。
ライターの火を手で覆うことなく煙草に火をともせる。
背中の汗冷えを気にすることもあまりない。
ゴーグルをする必要もない。
こんな横岳縦走は初めてのことだ。
先ずはヘルメットを装着、そしてストックからピッケルへと完全冬山装備で挑む。
すぐ真上にはでかい雪庇が今にも崩れ落ちそうに発達していた。
「あれが雪崩れたらひとたまりもないなぁ。さっさと上に行こうか。」
「すごく重そうですね。早く登っちゃいましょう。」
今いるポイントからそのままトラバースし、その後に直登してもいいかなと考えた。
しかし雪庇の真下を通過するのはあまりにも危険すぎる。
やはり安全第一で、当初の予定通り雪庇の手前を登ろうと決めた。
赤岩の頭よりやや硫黄岳寄りのポイントまで一気に直登開始。
雪庇が徐々に近づいてくる。
その不気味さに気持ちが負けそうになる。
何度もふり返りAM君を確認した。
「さぁここは一気一気だ!」
膝くらいまで埋もれながらの急登攀は結構きつい。
僅かに10分足らずの急登攀だったがこの時は脚に堪えた。
稜線まで登り切り、膝に手を当てながら息を整えた。
顔を上げてみれば、目の前には硫黄岳山頂へと向かう広大な「シュカブラ」が・・・。
何て美しいのだろう。
この冬の厳しさからしか生まれてこない大自然の造形美を、何に例えればいいのだろう。
まだ十分に整っていない呼吸であるはずなのに、ため息が出そうだった。
クラスト状に固まったシュカブラの上をゆっくりと登って行く。
「カシュ! カシュ!」と一歩一歩の音が心地よい。
「ん、待てよ。シュカブラを噛むアイゼンの音が聞こえるって・・・。」
そう、風が微風なのだ。
いやはやこれには驚いた。
何度もこの季節に訪れているが、こんな微風の日があるだなんて・・・。
曇天ではあるが、八ヶ岳連峰そのものの視界はいたって良好。
アイゼンの音で気付いた微風状態に思わずニンマリとしてしまった。
ノートレースのシュカブラの上を歩く。
「ウォー! こりゃ何とも贅沢な雪山だ」
と、何度も思いながら硫黄岳山頂を目指した。
こんな贅沢で楽しい気分は久しぶりのような気がする。
だが、一つの疑問があった。
昨日下山したあの山岳部の高校生達は、どこを通って鉱泉小屋まで、或いは硫黄岳まで行ったのだろうか。
昨夜から今日にかけては降雪は無かったし、いくらこれだけ幅の広いシュカブラルートとはいえ、一本のトレースも見かけないのは不思議だった。
「まぁいいか」
南を見れば、昨日登った赤岳と、これから縦走する横岳がくっきりと目視できた。
そして、北を見ればこれまた感動的な景色が・・・。
北アルプスである。
右に赤岳、左に北アルプス。
「たまんないね。ずっとこの景色を見ていたいくらいだなぁ。」
「すごいです。これ一生の思い出になります。」
AM君の一言は自分にも嬉しかった。
彼を連れてきて良かったと改めて思った。
夏山には夏山の素晴らしさがあり、雪山には雪山にしかない美しさがある。
どちらも甲乙つけがたいのだが、どちらか一つを選べと言われれば、僅差で雪山に軍配は上がる。
夏山以上に苦労をして登り、その甲斐あってこそ見ることができる厳しさの中から生まれる美しさ。
過去には命の危険にさらされることもあったが、それでもほんの数回は今日のようなご褒美がもらえるのだ。
少し雪庇に近づきすぎたが、もうすぐ硫黄岳山頂だ。
つい一月前、ちょうどこのあたりで風速30mの猛烈な風に何度も体ごと吹き飛ばされていたことが嘘のようだ。
ありがたい・・・。
今日のこの微風は本当にありがたい。
休憩をする時でも、風を気にせずゆっくりと行動食を摂ることができる。
ライターの火を手で覆うことなく煙草に火をともせる。
背中の汗冷えを気にすることもあまりない。
ゴーグルをする必要もない。
こんな横岳縦走は初めてのことだ。