ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

赤岳と横岳:いざ、横岳縦走へ!

2017年06月13日 01時53分30秒 | Weblog
三月後半、標高約2200mの雪の世界。
自分の住んでいる所と比べて気温は凡そ14°ほど低くなる。

就寝時の寒さ対策は問題はなかったが、夜中に数回目が覚めた。
「今、何度くらいだろう・・・」
そう思ったが、温度計を見る為に敢えてシュラフから手を出すことはためらった。
「十分あったかいし、まぁいいか。」
目を閉じるとすぐに眠りに就くことができた。
そりゃそうだ、なにせ昨夜は軽い仮眠を1時間程度とっただけ。
ましてや昼間は赤岳登攀だったし、体は疲弊している。

早朝3時30分にアラームの音で目が覚めた。
LEDランタンの灯りをつけ、ゆっくりとシュラフから上半身だけを出した。
吐く息が真っ白だった。
それでもシュラフカバーの上に体から出た水分(水蒸気)が凍ってバリバリになっていることはなかった。
「う~さっみぃー」
手袋をしたままお湯を沸かし、珈琲を飲んだ。
甘ったるいスティック珈琲だが、糖分が入っているだけ若干だがカロリーが摂取できる。
ゆっくりと飲み干し、今度は朝食の準備にとりかかった。
メニューは餅しゃぶと雑炊だ。
スライス状の餅をお湯でしゃぶしゃぶし、お汁粉に浸して食べた。
薄い餅だが10枚を食べた。
ただ下山するだけならもうこれで十分だろう。
しかし、今日はこれから横岳縦走が待っている。
ここをスタートして戻ってくるまで7~8時間はかかる予定だし、やはりもっとカロリーを摂っておくべきだ。
FDの「かに雑炊」を胃にかき込んだ。
朝食にしては少し量が多かったかとも思ったが、結果として多めに食べておいたことで後々助かった。

コッヘルを片付け身支度を整え、アタックザックの中身を最終チェック。
ヘッデンの灯りがテントの中を右に左にとせわしく動く。
隣のテントでも、ガサゴソとAM君が準備をしている音が聞こえてきた。

外に出て出発前の一服をした。
星は出ていなかったが、ガスってもいない。
「さて、いざ出発だ。」
予定より20分程遅れての出発となった。

「ガシュッ ガシュッ」というアイゼンが雪を噛む音が聞こえる。
さすがに一番冷え込んでいる時間帯だけに、昨日の昼間とは雪を噛む音が違っていた。

自分のヘッデンは、灯りの強さを3段階に調節できる。
スタート時は電池を節約するため「中」で照らしていたが、安全の為には「強」に変えた方が良いと判断し、スイッチを切り替えた。
「うん、やっぱりこの方が雪面の凹凸がはっきり見えて安心だ。」
樹林帯の中はまだまだ薄暗く、ヘッデンだけが頼りの登攀だった。


幸いトレースはしっかりと残っており、迷うことは全くなかった。
まだこの暗さでは、赤テープを見つけながらの登攀はできなかったのだ。

「赤岩の頭」直下まで、約2時間を予定している。
その間ずっと樹林帯の中をひたすら登るだけのコースだ。
ジグザグにとられているルートだったが、予想通り無理矢理直線ルートになっているポイントが何カ所もあった。
雪山ならではの「端折りルート」ってやつだが、かなりの斜度になっていた。
それでも何回かはこの端折りルートを利用させてもらった。
「昨日の高校生達かな?」
「人数が多かったからトレースがしっかりと残っていて助かりますね。」
そんな会話をしながらひたすら樹林帯の中を登って行く。


スタートして1時間も経過すると、もうヘッデンはいらなくなっていた。
休憩を兼ねヘッデンをザックに戻した。
煙草を吸い水分を摂ったが、行動食を摂るまでには至らなかった。
それだけしっかりと朝食を食べたからに他ならないが、やはり登山において朝食は重要だと改めて思った。

やがて樹木が少しずつまばらになってきた。

阿弥陀岳や赤岳方面の稜線が樹林の隙間から見えるようになってきた。
どんよりとした曇り空だが、何と嬉しいことに、風を殆ど感じることがなかった。
これには正直驚いた。
雪の南八ヶ岳登攀縦走は何度もしているが、こんなに風を感じない日は一度もなかった。
もう少し登ってみて、硫黄岳手前あたりでも風が今のようだと、もうラッキー以外の何ものでもない!
まぁあまり期待はしていないが、体が煽られる程度は仕方あるまいと思っている。


ほどなくして遠くに「大ダルミ」と思える所が目視できるポイントまで登ってきた。
やっと樹林帯を越えたのだ。
「さぁ、もうすぐ赤岩の頭だ。ここから先は樹木は一本もないよ。今度は雪と岩と氷の世界だから。」
「氷ですか?」
「そう、ピンポイントでいたる所アイスバーンだらけのはずだから、爪をしっかりと食い込ませて登ろう。落ちたらやばいよ~(笑)」


空は曇っていた。
しかし、やはりここでも風を感じることは殆ど無かった。
小枝がごく僅かに揺れる程度で、これなら汗冷えもあまり気にならないだろう。
汗冷えをあまり気にせずにすむことがどれほどありがたいかは嫌という程知っている。
休憩時にいちいち中間着をザックから取り出さずにすむだけでも助かる。

赤岩の頭手前ので休憩らしい休憩をとった。
水分、塩分、カロリー、そしてニコチン(笑)。
スタートして初めてゆっくりとした。

お菓子をくわえて、煙草を吸う真似をしながら赤岩の頭付近を見上げるAM君。
「雪庇はまだ見えませんけど、よく雪崩れる場所ってこの近くですか?」
「そう、ここを少し登れば雪庇は見えるはず。何年か前には雪崩で死亡事故も起きてるしね。ここから稜線までは一気に登っちゃう方が安全だから。」


休憩を済ませ、ザックを背負った。
そしてここからヘルメットを装着することにした。

「赤岩の頭」そして雪庇。
今日、まさかこの数時間後に雪庇が崩れ雪崩が起きようとは・・・。