5合目を過ぎると、大きな岩が目立ちはじめる。
勾配も急となり、みなさん息が荒くなり始めた。
いよいよもって核心部へと近づく。
だが、時折振り返れば中禅寺湖の湖面は紺碧の空を反映し、時に風に揺られ光彩陸離している。
夏山だけに与えられた、思い切り深呼吸したい衝動に駈られる瞬間だ。
このあたりから個人の経験や技量の差が出始めた。
これは自分でも予測できたことだが、あまり出しゃばるのだけはやめようと決めていた。
何故なら、あくまでも自分は一人の参加者に過ぎない。
「知ったかぶり」だけは御法度。
謙虚に、Kさんをサポートできればそれでいい。
されど大胆に楽しみたいという思いもある。
ごく短い距離のトラバースがあった。
完全なガレ場ではあるが、何のことはないとさっさと進んだ。
しかし、人によっては困難極まる場でもあった。
どう進めばよいのか。どう足を運べばよいのか。なんとなく滑落しそうで怖い。
そんなトラバースでもあったのだ。
一人の女性が足がすくんで一歩が踏み出せないでいた。
自分はと言えば、みんなの様子を写真に納めようと先に渡ってしまっていた。
「えっ、どうしよう。怖いです。」
確かそんな言葉を言っていた。
どうしようか迷った。
スタンスの位置、踏み出し方、重心のかけ方、ストックの応用等々自分でも教えられることだったが、あまり出しゃばりたくはないという思いが迷いを生んでしまった。
すると、Kさんが近づき補助しながら足の運び方のアドバイスをしてくれた。
(すぐに気付いた俺が行くべきだったのか・・・)
あのときのことは今でも後悔している。
女性にも、Kさんにも申し訳ない気持ちだ。
ガレ場と樹林帯とを交互に登攀し、もうすぐ7合目となった。
岩場はますます厳しい。
経験と技量、そして体力の差が顕著に現れる。
全体のペースも落ちてきている。
個人の差が大きい複数での登攀のとき、何を優先し、何をフォローし、事前に計画していた時間配分をどれだけ崩さずに進めて登るべきか。
いつも自分が悩み迷っている課題を解決するきっかけとなれればと思う。