ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

海とせんたく物とおにぎり

2007年12月04日 00時16分00秒 | Weblog
残された時間が少ないことはわかっていた。
列車の本数が少ないことも知っていた。
なのに列車を一本見送ってまで写真を撮った。

数人の地元の人たちが、ホームのベンチで思い思いの格好で列車を待っている。
お婆さんは端に座り、少しうなだれている。
ある人は海を見つめている。
そしてある人は横を向いて本を読んでいる。
ちょっと離れた位置でファインダーを覗いてみた。
ゾクッとした・・・「これだっ!!!」
誰一人としてポーズなどとっていない。カメラなど意識していない(気付いていない)。
撮りまくった。こんな偶然はそうあるもんじゃない。
瀬戸内と空の青。ホームとベンチ。そして列車を待つ人たち。
素人にしては傑作が撮れたと嬉しかった。

のどの渇きがひどいことを思い出した。
誰もいない駅舎を通り抜け、数件しかない民家の前にある自販機でジュースを買った。
腹も空いてきた。
「お兄さん、どこから来たの?」
振り向くと、おばさんが洗濯物を干していた。しかも、駅の敷地と道路とを隔てるための金網のフェンスにである。
なんて絵になる風景なんだと思ったが、洗濯物を写真に納めるのは失礼だ。
「はい、栃木から来ました。」
「栃木って遠いんだろうねぇ。」
「そうですね。東京からまだ先ですから。」
「あのぉ、この辺で食事ができる店ってありますか?」
「ないない。車があれば別だけどねぇ。」
そんな会話をしながら、ほんの10秒程度歩いてホームのベンチに戻った。

しばらくして。
「お兄さん。よかったらこれ食べて。」
さっきのおばさんだった。
皿の上におにぎりが3つ。そして麦茶を持ってきてくれた。
ありがたかった。どうしようもなく嬉しかった。
二人でベンチに座り、海を眺めながらおにぎりを食べた。
冷えた麦茶が日本の夏を感じさせてくれた。
自己紹介をし、何故ここに来たのかなど、帰りの列車が来るまで話をした。
せっかくだからと思い、無理を言っておばさんと記念写真を撮った。

もう列車が来る。否、来てしまう。
おばさんにお礼を言いホームに立った。
今度は自分が列車に乗り、旅人に戻る番だ。

おばさんが見送ってくれた。
列車に乗り込む。ドアが閉まる。
「あっ、これって?!」
そう。昨夜東京駅で自分が見たあの光景と同じじゃないか。

でも今度は手が届くんだ。
思わず窓を開け手を伸ばし叫んだ。
「おばさんおにぎりありがとう! 美味かったよ!おばさん元気でねぇ!」
おばさんは照れながらも握手をしてくれた。
「よかったらまたおいでね。何にもないけど、海だけはきれいだから。」

少しずつ、手を振るおばさんが小さくなっていく。
あの屋根のあるベンチと一緒に小さくなっていく。
だめだ・・・不覚にも涙が出てしまった。

旅とは、ひとり旅とは不思議な生き物である。
誰もが知っている有名な観光地なんかじゃなくて。
誰もが美味しいと言う豪華な食事なんかじゃなくて。
自分で作る予測不可能なストーリーがある。

「おばさんが作ってくれたおにぎり、本当に美味かったよ!」

*ちなみに上の写真は、後ろ姿の私です♪