らんかみち

童話から老話まで

佐村河内さんのCDを買いたくなった

2014年02月05日 | クラシック音楽
 インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」の発明者は「サトシナカモト」という名の日本人とされているけど、それが誰なのか明らかになっていない。京大の教授とする説もあるし、複数の人が書いた論文という説もあるらしい。
 おもしろい話だ。あの非凡集団のグーグルでさえ為し得えないエポックメイキングを実現したのが誰なのか分からないというんだから。

 世間って、分かっているより分からないことに興味を惹かれるものじゃないだろうか。そういう意味で佐村河内守さんが、「自分が作曲したのではなく、別人に依頼して作曲してもらっていた」と告白した件は実に興味深い。
 あの作曲家を取り上げた番組を観たけど、それほど面白いとは思わなかった。バッハへのオマージュらしい無伴奏バイオリン曲も聴いたけど、バッハの曲を切り貼りして所々に現代曲が挿入された感じ。バッハへのオマージュというより、イザイのマネみたいな……。

 佐村河内さんに対する非難や失望の声が上がっているらしい。でも音楽の世界でゴーストライターのことを言い出したら猫のしっぽ、じゃなくて虎の尾を踏むようなことにならんか? 
 あのバッハの最も有名な曲、トッカータとフーガニ短調BWV565でさえ偽作、つまり別人の作曲だという説があるくらいだしね。バッハが盗作したというのではなく、大先生の作品を誰かがオルガン曲に編曲して後世に伝えた、ということだろうか。原譜が残っていないので、編曲されていなかったら我々は聴くことができなかったはず。
 
 一方、「ヴィヴァルディ先生による“忠実な羊飼い”の楽譜出版しました」なんてのは、出版社が人気作曲家にあやかって(ヴィヴァルディーの真曲も挿入してある)新人の楽譜を売りまくったというケース。ちなみに、ぼくの大好きな曲集。
 また、「ヴィヴァルディの新作見ぃつけた!」といったように、自分を売り込むために他人名義の自作曲を演奏し続けたクライスラーのようなバイオリニストもいる。

 今回のケースは、NHKやCDの発売元が「知らなかった。CDは出荷停止。憤っている」としているが、どうよ。じゃんじゃん売りまくったんだから、「今までありがとうございました」じゃないかねぇ。
 佐村河内さんに肩入れして儲けた人はいるだろうが、損をした人はいるんだろうか。クライスラーは儲けたろうけど、ヴィヴァルディの作品より素敵な曲を聴いて得した気分になる人だって多いはずだ。

 どういう経緯での告白だろう。もしかして、ギャラのことでゴーストライターとの関係がうまくいかなくなったってことかね。別人が名乗り出たらしいけど、ゴーストは表に出ない方がいいんじゃないの。「作曲者が全聾」とのプロパティーがなかったら、CDはそれほど売れなかったのでは、と思うから。

 大統領の演説原稿だって別人が書いているんだから、ゴーストには言及せず、謎は謎のままにしておいたらどうか。せっかく「別人は誰だ?」というプロパティーが追加されて興味が増したんだ。スーパーマンが正体を明かさないのとは意味が違うかも知れないけど、隠されているから知りたいってこともあるよね。

 ああしかし、今度の件でかえってCDを買いたくなったよ。

Glass harp-Toccata and fugue in D minor-Bach-BWV 565

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