(承前)
順番が前後しますが、会期末が近づいているので、先に紹介します。
札幌で日本画家の間野桂子さんを中心に美術展の企画やアート情報の紹介などに取り組んでいる「さっぽろアートビーンズ」が主催する5人展(リンク先の、紹介のサイトは、市内のギャラリー情報がまとまっていて、便利です)。
どういういきさつがあったのか、いまひとつはっきりしないのですが、間野さんたちが昨年、知床でアーティスト・イン・レジデンスを行い、その発表が、新型コロナウイルスの感染拡大でずれ込んで、この秋になったようです。
会場は、ウトロ地区からプユニ岬をすぎて奥へと入った知床自然センターの一室。
このセンター前に三叉路があり、左に行くと知床五湖、右に行くと知床横断道路と羅臼方面です。
筆者が以前訪れたときは、駐車場はエゾシカだらけでしたが、今回は車で埋まっていました。
展示室の前半の中央には、日本画の画材や用具などが机の上に置かれています。
筆者が見ていると、小学生男子がやって来ていじり出すので
「ほら、触らないでって書いてあるっしょ」
と言うと、気まずそうに出ていきました。
壁には、知床やその周辺に材を取った間野さんの風景画の小品が並んでいました。
展示室の奥側の半分は、川村喜一さんの大きな写真プリントが天井からつり下がり、千葉麻十佳さんの「星図」という作品が床に置かれています。
5人のうち川村さんだけは、札幌から知床に来て滞在したのではなく、知床を拠点に写真を撮り、狩猟をして暮らしています。
8月に斜里町市街(ウトロも斜里町内ですが、車で30分かかります)で開かれた「葦の芸術原野祭」の中心メンバーでもありました。もともと本州の人で、東京藝大で学んだ後、北海道に来たようです。
この画像では暗めに写っている左の大きな写真はサケの群れです。
カメラに任せると明るく撮れてしまうので、あえて元の雰囲気を生かしてみました。
右のプリントにはシカの子どもが写っていて、かわいいですね。
筆者は老人なので、昔小樽で製造していた「バンビキャラメル」を思い出してしまいます。
千葉さんの作品は、実際の星図ではなく、満天の星空を思い浮かべつつ、特殊な技法を用いて、濃い藍色の地に星のような白い点をちりばめています。
筆者は4等星ぐらいまで確認できるような暗い空を見ると、とてもうれしくなって、いつまでも見飽きません。
ただ、めったにないことですが、5等星、6等星まで見えるような空だと、あまりに星が多すぎて、どこになんの星座があるのか、とっさにわからなくなってしまいます。
大都市とはまるで様相の異なる夜空と向き合ったときの原初的な驚きや喜びがそのまま表現されているようですが、ロマン派的な情緒に流れていないのは、おそらく、床に置いたという手法のゆえではないでしょうか。
これが天井に貼ってあると、ほんとにただの描写になってしまいますから。
何枚ぐらいあるんだろう。
梅田力さんは近年、「サッポロ美術展」などにも出品している彫刻家です。
今回は彫刻ではなく、写真を素材にした平面作品のようです。
大都市に隣接した公園のようなゆるい自然ではなく、まがまがしい空気さえ感じさせる深奥な森林の様相を伝えるような、そんなエッジのきいたモノトーンの作品になっています。
従来の彫刻が量塊性を基盤にしているのに対し、梅田さんの彫刻作品は、線を軸に展開されてきています。
もっとも、線による彫刻自体は、まったくの独創ではありません。
それは、宮脇愛子の作品(札幌芸術の森野外美術館にもあります)を見れば自明のことです。
宮脇さんの線が天に向かっていくのに対し、梅田さんの線は重力にさからわず、だらりと下がっていることが多いです。まるでサルオガセのようだと、筆者はいつも感じていました。
今回、壁に作者のテキストが貼ってあり、それは哲学や宗教について考究したものでした。
右手には小泉章子さんの写真が3点並んでいます。
斜里の海岸の風景と、知床の森で撮った2枚です。
小泉さんはもともと日本画家ですが、体調が思わしくなく、写真での参加となり、今回の展覧会の前に逝去されたようでした。
梅田さんの平面は、入り口にも、イーゼルに立てかけて展示しています。
知床に滞在したから知床で発表するのは理にかなっているといえますが、よく考えると、知床の自然を愛し、日々圧倒されている人に向けて、知床の自然にインスパイアされた作品を突きつけても、感動してもらうのは、かなり難度が高そうです。自然そのものが、センターのまわりにはたくさんあるのですから。
むしろ、これらの作品は、札幌などの都市で発表して、知床の大自然の持つ、並大抵ではない迫力や奥深さを都会人に感じてもらうのが良いのかもしれないと感じました。
Art Exhibition 2021 by Sapporo Art Beans 美術展「自然のトルク」/ 5 Sept. - 31 Oct. 2021 /Hokkido in Japan
2021年9月5日(日)~10月31日(日)午前8時半~午後5時半(10月21~31日は午前9時~午後4時。緊急事態宣言中は午前9時~午後5時)
知床自然センター企画展示室(斜里町岩宇別531)
過去の関連記事へのリンク
【告知】自然のトルク (2021年9月5日~10月31日、オホーツク管内斜里町)
■第3回さっぽろアートビーンズ展―ブルガリア×花舞小枝 (2017)
■第27回 多年草展 (2013)=間野さん出品
■葦の芸術原野祭・続き (2021年8月14~26日、斜里) 斜里へ日帰り(3)=川村さん出品
□Madoka Chiba http://chiba-madoka.net/index.html
□川村さんツイッター @KiichiKawamura
・斜里バス斜里ターミナル(JR知床斜里駅前)から「斜里線」に乗り「知床自然センター」降車すぐ。
※斜里ターミナルから乗車1時間10分、1日3往復
※網走―知床斜里駅はJR釧網線が1日7往復。また女満別空港、網走駅から「知床エアポートライナー」が1日2往復出ています。このバスはウトロ温泉バスターミナル止まりで、知床自然センターまでは行かないので、同ターミナルで「斜里線」か「斜里線」に乗り継ぐ必要があります
順番が前後しますが、会期末が近づいているので、先に紹介します。
札幌で日本画家の間野桂子さんを中心に美術展の企画やアート情報の紹介などに取り組んでいる「さっぽろアートビーンズ」が主催する5人展(リンク先の、紹介のサイトは、市内のギャラリー情報がまとまっていて、便利です)。
どういういきさつがあったのか、いまひとつはっきりしないのですが、間野さんたちが昨年、知床でアーティスト・イン・レジデンスを行い、その発表が、新型コロナウイルスの感染拡大でずれ込んで、この秋になったようです。
会場は、ウトロ地区からプユニ岬をすぎて奥へと入った知床自然センターの一室。
このセンター前に三叉路があり、左に行くと知床五湖、右に行くと知床横断道路と羅臼方面です。
筆者が以前訪れたときは、駐車場はエゾシカだらけでしたが、今回は車で埋まっていました。
展示室の前半の中央には、日本画の画材や用具などが机の上に置かれています。
筆者が見ていると、小学生男子がやって来ていじり出すので
「ほら、触らないでって書いてあるっしょ」
と言うと、気まずそうに出ていきました。
壁には、知床やその周辺に材を取った間野さんの風景画の小品が並んでいました。
展示室の奥側の半分は、川村喜一さんの大きな写真プリントが天井からつり下がり、千葉麻十佳さんの「星図」という作品が床に置かれています。
5人のうち川村さんだけは、札幌から知床に来て滞在したのではなく、知床を拠点に写真を撮り、狩猟をして暮らしています。
8月に斜里町市街(ウトロも斜里町内ですが、車で30分かかります)で開かれた「葦の芸術原野祭」の中心メンバーでもありました。もともと本州の人で、東京藝大で学んだ後、北海道に来たようです。
この画像では暗めに写っている左の大きな写真はサケの群れです。
カメラに任せると明るく撮れてしまうので、あえて元の雰囲気を生かしてみました。
右のプリントにはシカの子どもが写っていて、かわいいですね。
筆者は老人なので、昔小樽で製造していた「バンビキャラメル」を思い出してしまいます。
千葉さんの作品は、実際の星図ではなく、満天の星空を思い浮かべつつ、特殊な技法を用いて、濃い藍色の地に星のような白い点をちりばめています。
筆者は4等星ぐらいまで確認できるような暗い空を見ると、とてもうれしくなって、いつまでも見飽きません。
ただ、めったにないことですが、5等星、6等星まで見えるような空だと、あまりに星が多すぎて、どこになんの星座があるのか、とっさにわからなくなってしまいます。
大都市とはまるで様相の異なる夜空と向き合ったときの原初的な驚きや喜びがそのまま表現されているようですが、ロマン派的な情緒に流れていないのは、おそらく、床に置いたという手法のゆえではないでしょうか。
これが天井に貼ってあると、ほんとにただの描写になってしまいますから。
何枚ぐらいあるんだろう。
梅田力さんは近年、「サッポロ美術展」などにも出品している彫刻家です。
今回は彫刻ではなく、写真を素材にした平面作品のようです。
大都市に隣接した公園のようなゆるい自然ではなく、まがまがしい空気さえ感じさせる深奥な森林の様相を伝えるような、そんなエッジのきいたモノトーンの作品になっています。
従来の彫刻が量塊性を基盤にしているのに対し、梅田さんの彫刻作品は、線を軸に展開されてきています。
もっとも、線による彫刻自体は、まったくの独創ではありません。
それは、宮脇愛子の作品(札幌芸術の森野外美術館にもあります)を見れば自明のことです。
宮脇さんの線が天に向かっていくのに対し、梅田さんの線は重力にさからわず、だらりと下がっていることが多いです。まるでサルオガセのようだと、筆者はいつも感じていました。
今回、壁に作者のテキストが貼ってあり、それは哲学や宗教について考究したものでした。
右手には小泉章子さんの写真が3点並んでいます。
斜里の海岸の風景と、知床の森で撮った2枚です。
小泉さんはもともと日本画家ですが、体調が思わしくなく、写真での参加となり、今回の展覧会の前に逝去されたようでした。
梅田さんの平面は、入り口にも、イーゼルに立てかけて展示しています。
知床に滞在したから知床で発表するのは理にかなっているといえますが、よく考えると、知床の自然を愛し、日々圧倒されている人に向けて、知床の自然にインスパイアされた作品を突きつけても、感動してもらうのは、かなり難度が高そうです。自然そのものが、センターのまわりにはたくさんあるのですから。
むしろ、これらの作品は、札幌などの都市で発表して、知床の大自然の持つ、並大抵ではない迫力や奥深さを都会人に感じてもらうのが良いのかもしれないと感じました。
Art Exhibition 2021 by Sapporo Art Beans 美術展「自然のトルク」/ 5 Sept. - 31 Oct. 2021 /Hokkido in Japan
2021年9月5日(日)~10月31日(日)午前8時半~午後5時半(10月21~31日は午前9時~午後4時。緊急事態宣言中は午前9時~午後5時)
知床自然センター企画展示室(斜里町岩宇別531)
過去の関連記事へのリンク
【告知】自然のトルク (2021年9月5日~10月31日、オホーツク管内斜里町)
■第3回さっぽろアートビーンズ展―ブルガリア×花舞小枝 (2017)
■第27回 多年草展 (2013)=間野さん出品
■葦の芸術原野祭・続き (2021年8月14~26日、斜里) 斜里へ日帰り(3)=川村さん出品
□Madoka Chiba http://chiba-madoka.net/index.html
□川村さんツイッター @KiichiKawamura
・斜里バス斜里ターミナル(JR知床斜里駅前)から「斜里線」に乗り「知床自然センター」降車すぐ。
※斜里ターミナルから乗車1時間10分、1日3往復
※網走―知床斜里駅はJR釧網線が1日7往復。また女満別空港、網走駅から「知床エアポートライナー」が1日2往復出ています。このバスはウトロ温泉バスターミナル止まりで、知床自然センターまでは行かないので、同ターミナルで「斜里線」か「斜里線」に乗り継ぐ必要があります
(この項続く)