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黒川晃彦「花の調べ」 苫小牧の野外彫刻(12)

2019年05月09日 10時56分23秒 | 街角と道端のアート
(承前)

 昨年11月に取材した「苫小牧の野外彫刻」の続き。

 美術博物館や図書館のある「出光カルチャーパーク」と、体育館などのある一角との境界あたりに設置されている作品だ。 

 黒川晃彦さんは1946年生まれ。

 太った男が金管楽器を奏でる像をベンチと一体化させた作品で知られ、景気の良い時代には全国各地の自治体から註文があった。
 かつて道立近代美術館に勤めていた武田厚さんが彫刻家101人を訪問して書いた『彫刻家の現場アトリエから』によれば、多いときは2カ月に1体のペースで制作していたという。
 道内でも、旭川・買物公園の「サキソフォン吹きと猫」はわりあい広く知られているだろうし、札幌にも、清田区真栄に「切株に座って」という作品があるそうだ。

 まあ、わかる気はする。
 アートや彫刻が好きな人は別にして、一般の人は、街角の彫刻には大して気をとめていないことが多い。
 ありふれた人物像などは、ぜんぜん記憶に残っていない場合がよくある。
 そういう彫刻にくらべれば、黒川さんの作品は、太った男が楽器を奏でているという特徴あるモティーフで、いかにも芸術でござい―というかしこまったところが少なく、親しみやすいのだ。

 しかも、ベンチと一緒になっている作品が多い。
 これは多くの野外彫刻と異なり、実用性を備えているということだ。
 像のとなりに腰掛けて記念写真をパチリ、というのにもうってつけだ。

 男性はどうして上半身裸なんだろう。

 武田さんの『彫刻家の現場から』には

「ハダカで管楽器を吹いている姿にちょっと驚いてくれればいい。注目させることが先ず大事でそれが彫刻と人々の触れ合いの最初となり、作家と一般との触れ合いの最初になる」

という黒川さんの答えが載っている。

 ただ街角に設置さえすれば良いというのではなく、彫刻の「居場所」についても作者が考えている、ということなのだろう。


 ところで、この作品がユニークなのは、ベンチも彫刻も二つあって、片方から見ればサックス男なのだが、反対側では、帽子をかぶった女性がひざをそろえて腰掛け、鉢植えの花を手にしているのだ。
 性別も、座る姿勢や位置も、体格も、いろんな意味で対照的な二人といえる。

 この二人はどういう関係なんだろうと考えるのもおもしろい。
 野外彫刻は多くの場合、1体でぽつんと立っていて、2体の場合も同じような人物が対になっていることが少なくない。同じ作品の中で、人間の関係にあれこれ想像を巡らせることができることは、そう多くはないのだ。
 まだお互い知らない二人の間にどんな物語が始まるのだろうとか、想像が膨らむ。


 ちなみに、黒川さんの彫刻で男性が演奏する楽器は、サックスだけではなく、いろいろな種類があるとのことだ。






(この項続く) 


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