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ランドスケープ 柴田敏雄 09年東京(5)

2009年01月14日 22時50分26秒 | 道外で見た展覧会
 あまり個人的な政治信条などは書かないようにしているのだけど、以前から腹に据えかねていることがある。

 「美しい日本の山河」
などと口にする保守系政治家が、じつは大嫌いだ。

 お前らが土建業者による選挙によって当選し土建業者のための政治(単なる税金の分配だが)を続けてきた結果、日本の山河はめちゃくちゃになったじゃないか。
 川は四角い護岸と砂防ダムだらけ。急斜面にはコンクリートが吹き付けられ、あちこちの山がばんそうこうを貼られたみたいになっている。

 悲しい。


 柴田敏雄が大判カメラで撮影した、土木工事やダムの写真を見ていると、日本の国土の惨状が、あらためてわかる。桜だの樹氷だのを撮っている凡百のネイチャー写真家とは、目の付けどころがちがうのだ。
 ところが、じっと見ているうちに、あらあらふしぎ、コンクリートで固められた斜面が、なんだか美しいものに見えてくるのだ。

 柴田氏の写真は 極力主観を排し、すみずみまでピントが合うよう、しぼって撮影されている。
 決して、土建政治の告発とか、地球環境と自然を大事に-といった「わかりやすい写真」ではない。
 というよりは、一見すると醜い風景が見方によっては美しいものでもあることが、わかる写真なのだ。
 「きれいはきたない」って、「マクベス」みたいだけど。
 美って、両義的だなあと思う。


 これらの土木工事現場を忌避し、さらに美しい風景を求めて山奥へと向かったところで、それは旧来のロマン主義をなぞることにすぎないだろう。
 あるいは、「日本の山河の現実」に背を向けることにしかならないだろう。
 そこまでして、或る意味ウソをつくぐらいなら、ありふれたコンクリート製の風景に、新しい美を発見する方が、どんなにか優れていることか。


 ただ、筆者としては、ここに映っている人工的な風景を、手放しで礼賛もしたくない。
 会場で貸し出している音声ガイドは、女性アナウンサーと柴田氏の会話で作品が解説されていくのだけれど、彼女のように「ほんとうに工芸品みたいですねー」とウットリしてしまうのは、なんか違うような気がするのだ(べつに彼女を責めているわけではない)。
 今回の出品作にもあったけど、未舗装道路の防災のために巨大なコンクリートの壁を造ったりとか、やっぱりどっかおかしいのではないか。

 ようするに、世界とは、美しいとか醜いとか、単純に割り切れないものなのだ。
 柴田氏の写真は美しい。二分法では語りきれない部分が、大型の画面に、豊かに表現されているがゆえに、美しいのだと思う。


 「日本写真家事典」から略歴を引用しておこう。
 
 1949年、東京に生まれる。72年、東京芸術大学美術学部絵画科油絵専攻卒業、74年、同大学院修了。75年、ベルギー文部省から奨学金を受け、ゲント市王立アカデミー写真学科入学。76年、奨学金を継続。79年、帰国。(中略)88年、日本各地の造成地を大型カメラでとらえた「日本点景 On the spot」、翌年「日本典型 Quintessence of Japan」展が高い評価を受け、92年に木村伊兵衛写真賞を受賞。(中略)国内外での展覧会にも積極的に参加し、海外でも評価されている写真家のひとり。97年にシカゴ現代美術館、98年にはパリ国立写真センターで個展を開催。フランス国立図書館、メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館等に作品が収蔵されている。


 海外での評価が高いことについては、アート関係では有名なブログ「弐代目・青い日記帳」さんが、
「杉本博司同様、「Toshio Shibata」で検索した方が、多くの記事や画像目にすることできます」
と、おもしろい表現をしている。
 しんじがたいことに国内の美術館での回顧展はこれが初めてという。
 
 なお、音声ガイドは40分もあるが、非常に平易で参考になるので、500円払って借りるのがおすすめ。
 自作にはなるべく空をフレームインさせないようにしている、スケール感がわかってしまうから-という意味の発言とか、コンクリートがぬれているところに日本的なウエットさを感じたとか、目からウロコだった。


2008年12月13日(土)-09年2月8日(日)10:00-18:00(木、金は20:00まで) ※入館は閉館の30分前まで。月曜日・12月29日-1月1日休み(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
東京都写真美術館(東京都目黒区三田1丁目13番3号 恵比寿ガーデンプレイス内)
一般 700円/学生 600円/中高生・65歳以上 500円。小学生以下無料(団体割引、他の展覧会とのセット料金などもあり)



・JR山手線恵比寿駅から約600メートル(動く歩道が完備されているので、楽です)

□デジカメWatchの写真展リアルタイムレポート http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib/2008/12/17/9851.html

□Toshio Shibata http://www.02.246.ne.jp/~shi810/


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