ヤングキングアワーズ 2017年3月号より
以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)
●ナポレオン -覇道進撃- (長谷川哲也 先生)
コミックス12巻、2月28日発売! スペイン戦線、殺伐!
今回、巻頭カラーで、表紙からのグロテスクな場面への転換は、お約束です。
スペインのゲリラが、オウムに目をくりぬかれていて、目をそむけたくなりますね。
目をくりぬかれた男は威勢がよく、最後まで屈することはありませんでしたが、
オウムが「タスケテ」だの「ヤメロ」だのと言葉を発しているのを考えると、
多くのゲリラたちが、悲惨な目にあっていることが察せられます。
そして、フランス兵は皇帝陛下のご結婚が決まったとのことで、「祝砲」と称し、
ゲリラを砲撃で無残に撃ち砕いていたのが、なんとも凄惨でありました。
しかし、ここで兵士たちが、皇帝陛下の結婚を祝福すると同時に、自分たちが戦地という
地獄に送られているにもかかわらず、皇帝はよろしくやってると不満をもらしていたのは
気になるポイントでしたね。
ナポレオンの結婚。
思ったように結婚の話が進まず、難儀しているナポレオン。
ロシアのアレクサンドル陛下は、何かと条件をつけて、公女を渡す気はなし。
離婚と結婚の間が空くと、国民が不安になるという助言もあって、
オーストリアに狙いを定めますが、つい先日まで戦争をしていた相手であるため、
交渉が困難なものになると想像されます。
そこで、白羽の矢が立ったのが、タレイラン!
ナポレオンと意見を違え、外務大臣を辞めた彼が、ここで起用されるという大転換。
しれっと、しかしうやうやしく、おまかせ下さいなんて言っちゃうタレイラン、さすがです。
さらにはナポレオンも、タレイランの優秀さを認めているため、使わざるを得ないという構図。
「愛するのをやめられない」と述べるタレイランの言葉を、肯定するナポレオンが印象的でした。
ナポレオンの妻となる女性。
オーストリアの皇女・マリア=ルイーザ。
ウィーンに迫る大陸軍から逃れた頃の、苦い記憶をもっている女性です。
そんな彼女が、フランツ2世からナポレオンに嫁ぐよう言われています。
動揺しつつも、皇女としての立場をわきまえ、受諾するあたり、立派なふるまい。
しかし、振り向くや涙を流した表情になっている所が、彼女の人となりを感じさせます。
そして、彼女を迎えに、ベルティエが遣わされることになりますが、
ベルティエは戦争初期の失敗を、この件で挽回すべく奮起しているのが面白かった。
というのも、ウィーン占領の際、マリア=ルイーザを避難に追い込んでいることを考慮し、
いかに彼女の警戒感を解くべきか、全力でもって思考し、対策を講じていたのが
あまりに見事過ぎて、感服でありました。
出発の憂鬱。
「コルシカの人喰い鬼」とまで呼ばれた男のもとに、嫁ぐことになった悲哀。
愛犬との別れを惜しみ、馬車の中では、大おばであるマリー・アントワネットについて、
その末路を思い、涙を浮かべるほどに沈むマリア=ルイーザが切なかった・・・
さらに馬車の中で、ベルティエがいかに皇帝は厳格であるかを語り、かつての皇后である
ジョゼフィーヌが浮気したときに受けた仕打ちを教えるなど、彼女の恐怖を煽っていたのが
奇妙でしたが、これも緊張を与えつつ、その後に緩和させる狙いがあったと考えると納得です。
そして、そこへ突然現れた皇帝陛下!
ベルティエは、このことを想定していたらしく、すぐさま次の行動に移っていたのが手際よい。
何というか、芸術的でさえありましたね(^^;
憂鬱から幸福へ・・・
ナポレオンに迎えられ、パリのチュイルリー宮へ入るマリア=ルイーザ。
そこで、名前もフランス風に「マリー=ルイーズ」とするよう言われ、受け入れています。
そして部屋へ入ると、そこにはベルティエが用意した、彼女を安心させるための“仕掛け”が!
もはや、これには感服しきりでしたね~。 今回のMVPは、間違いなくベルティエさんです。
しかも、その配慮を「陛下の考えです」と、ナポレオンの指示通りだと述べることで、
マリーさんの心証をよくすることはもちろん、ナポレオンへのアピールも万全という態勢。
スキがなさ過ぎて、完璧であります。 ポカーンとする陛下に笑ってしまいました!
おかげで、マリーさんがあれほど恐れていたナポレオンへの印象も、大きく変化。
「他人が言うほど怖くない」なんて考え、笑顔になってしまうほどくだけた雰囲気になり、
この結婚がうまくいきそうだと感じさせていたのは、素敵でしたね。
さらに最後、その様子をベルティエから聞いたタレイランの心中には、驚かされました。
ナポレオンとは意見を違え、決裂した関係でありながらも、ナポレオンはタレイランを
重用せざるを得ないことはわかっていましたけど、では、タレイランの内心は・・・?
稀代の英雄ナポレオンに対する、単純ではない想いを抱えた人は多いのですが、
あのタレイランまでもが、そうした心情でいるとは、むしろ感動すら覚えてしまいましたよ。
それにしても前回は、前皇后ジョゼフィーヌとフーシェに焦点が当たり、
今回は、新たな皇后マリー・ルイーズとタレイランについて描かれていたのは、
対比としても面白い構造になっていましたね。
ナポレオンとタレイラン、相容れない存在となりつつある2人が、
それでも互いを必要としている感覚。 そうした関係を感じつつ・・・ 今後も楽しみです!