五里霧中

★ マンガなどの感想 ★

◆ 今月のナポレオン

2016年06月05日 | ◆[不定期] ヤングキング・アワーズ

ヤングキングアワーズ 2016年7月号より

 今月の『蒼き鋼のアルペジオ』感想はこちら
 今月の『僕らはみんな河合荘』感想はこちら
 
 
 
 

以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)

 
 
 
 
 

●ナポレオン -覇道進撃- (長谷川哲也 先生)

 

 ランヌ、負傷!

 砲撃を受け、大きく足を負傷してしまったランヌ元帥。
 立ち上がることができず、足が1本折れてしまうほどでしたから、
 その激痛が伝わってきそうなくらい、悲痛な様子でありました。

 すぐさま担架をつくるよう指示するナポレオン。
 そこで飛び出してきたのは、ビクトルでしたが・・・

 

 

 

 ランヌとビクトル。

 ビクトルの顔を見るや、いきなり「ポルトガルで貸した金返せ!!」と、
 飛びかかってゆくランヌさんには、思わず笑ってしまいました!

 そして、一撃くらうビクトルでしたが、その際、これまでのランヌとの関わりが
 回想で描かれていて、何とも感慨深いものがありましたね。

 ロディ、エジプト、ポルトガル、そしてパン屋・・・
 ランヌの勇ましい姿と、彼に世話になりっぱなしだったことを思い出すビクトル。

 だからこそ、殴られながらも、涙を流して感謝の言葉を告げていたのでしょう。
 そんなビクトルの姿を見て、あっけにとられたようなランヌさんが、何だかよかった。

 ナポレオンは、足をやられただけで、ランヌが死ぬことはないと考えていますが、
 戦況の方は劣勢で、負傷兵も多く、ここで苦渋の決断を下すことに・・・

 

 

 

 撤退。

 それすなわち、カール大公に敗れたことを認めることに他ならず、
 カール大公に対して「お前の勝ちだ」と考えていたことが、衝撃的でしたね。

 あのナポレオンが敗北し、それを認めた。
 そのためなのか、負傷兵を気にかけていたり、そのことが「珍しい」ことだと
 記されていたのが印象的でありました。

 そして、カール大公が「ナポレオンに初めて勝った男」として歴史に名を残した
 というのがたまらない所で、本人も喜悦を抑えるような表情だったのは面白かった。

 彼の勝利は、ヨーロッパ中にナポレオンが負けたという事実を広め、
 大きな影響を与えることになるわけで、単に彼自身の業績にとどまらない効果を
 及ぼすことになるのでしょうね。 ナポレオンも負ける、という事実の確認は大きい。

 

 

 

 負傷したランヌ。

 軍医総監のラレを中心に、ランヌ元帥の足を切るべきか話し合っています。
 ナポレオンは、ランヌは不死身の男だと反対のようですが、時すでに
 片足だけか両足を切るかを判断する段階で、だいぶ深刻な状況のよう。

 ランヌの負傷にも兵士たちは楽観的で、3日もすれば先頭で暴れてるなんて
 笑い話にしているものの、ベシエールさんなどは暗い表情をしています。

 暑さにやられ、壊疽のため高熱で惑乱しているランヌは、実はもう長くないと
 診断されており、さすがのナポレオンも驚愕していたのが、辛かった。

 

 

 

 ランヌのナポレオンへの想い。

 死の迫る床で、ランヌが語るナポレオンに対する想い。
 これが、もう、たまらなかった。

 先々月号、ランヌがナポレオンに会いに行った時の話。
 自分がここへ来たことを忘れないでほしいと、ナポレオンに願ったランヌ。

 この時の真相が、ランヌ自身の口から語られていました。
 それは実に驚くべきことだったわけですが、そこに秘められたランヌの熱い想いには、
 ある種の共感を覚えずにはいられませんでしたよ・・・

 私が子供の頃、ナポレオンの物語を読んだ際、その栄光に胸躍らせながらも、
 後の挫折に非常に残念な思いを抱いたものです。

 そのときの気分を考えますと、ランヌがナポレオンを栄光の座にあるうちに
 “終わらせよう”と思い至ったことは、不思議でも何でもなく、むしろ必然。

 近しい友人であるからこそ、ナポレオンの衰えを察しているわけで、
 ナポレオンに対する具体的な指摘が、突き刺さってきます。

 ゆえに、ナポレオンの破滅を予見し、早々に終わらせようとした
 という想いには、痛切なものを感じずにはいられませんでした。

 しかし、それを遂行することはできなかった。
 なぜならば、ナポレオンはランヌにとって友だちだから・・・
 そんな言葉がやるせなく、胸を打ちます。

 

 

 

 ナポレオンの涙。

 苦痛にさいなまれるランヌを見て、楽にしてやろうと考えるナポレオン。
 銃口をランヌの頭部に向け、今にも引き金を引こうかという緊迫感。

 けれど、ナポレオンにとっても、ランヌは友だちであり、
 ランヌと同じような結果に終わっていたことが、切なすぎました。
 互いに互いを想うからこそ、引き金を引くべき所で引けないという・・・

 そして、ナポレオンが流す涙。
 友だちを失ってしまったナポレオンの胸中は、察してあまりあります。

 とくに、ランヌは「戦友」という点では、最高の友人だったのではないでしょうか。
 これからのナポレオンに、ランヌはまだまだ必要な人材でもあったはずで、
 その喪失は、想像以上にナポレオンに大きな影響を与えそうな気がします。

 かつて、ドゼーを失ったときのように、ナポレオンの失ったものの大きさは、
 これからの緩やかな転落を思うと、計り知れない規模なのかもしれません。

 

 

 

 ランヌ、逝く・・・

 本作品において、ランヌという人物は、最高に好きなキャラクターでありました。
 勇猛果敢という言葉では言い表せないほどの“狂戦士”っぷりは、
 突き抜けた痛快さを感じさせ、心を熱くしてくれる存在でしたから。

 それでいて、ナポレオンの友人という立場で気楽に話し合う姿が、
 ユーモアを感じさせつつ、不思議な安心感を覚えさせてくれたものです。
 また気風の良さもあって、そうした姿に、本作で最も“男”を感じられた人物ですね。

 それゆえに、それまで名前くらいしか知っていなかった「ナポレオンの元帥の1人」が、
 大いに興味深い人物へと変貌したのは、本作のおかげであり、ありがたいことであります。

 そんな彼が、ついに歴史の舞台から降りてしまった今回。
 これまで数回、じっくりと描かれてきたランヌの物語は、退場への階段とでもいいますか、
 少しずつ「終わり」へ近づく道しるべのように思えて、しみじみするものを感じていました

 ランヌへの手向けは、ナポレオンの涙。
 これほどのものは、他にはないでしょう。

 私はただ、黙祷するのみ・・・
 それでも、ナポレオンの物語はまだまだ続きます。
 ランヌの危惧した通りの過程を経るとしても、それを見届けなければなりません。
 そんな風に感じつつ・・・ 今後も楽しみです!

  

◆ ヤングキングアワーズ 感想
 


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