ヤングキングアワーズ 2014年8月号より
以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)
●ナポレオン -覇道進撃- (長谷川哲也 先生)
アウエルシュタットの戦い!
前回、イエナの戦いにて勝利を収めたナポレオン。
その一方で、ダヴー率いる別働軍が、敵主力とアウエルシュタットにて衝突。
倍以上の敵を相手に、これを撃破したとの報告を受けていますが、
自分の方が敵主力と戦闘したと思い込んでいたナポレオンは、
にわかに信じることができない様子で・・・?
アウエルシュタットの戦いに臨むダヴー。
敵軍を、倍以上の数がいる主力であると認識しつつも、
いつも通りの姿勢で挑もうとするあたり、豪胆さと同時に、狂気をも感じさせますね。
軍事の常識でいえば、相手よりも「数」で勝っていることが重要なのであり、
この「数」を軍事的能力だけでくつがえすなど、そうそうできるものでないことは明白。
圧倒的にプロシア軍有利であるにも関わらず、ダヴーはそんなこと気にもしていないように
ふるまっているのだから、相当なものですよ。
開かれる戦端!
プロシア軍の騎兵が突撃してくると、フランス軍は方陣を組んで迎撃。
あっという間に方陣を組むフランス軍の練度の高さに、プロシア側が驚いています。
ここでビクトルが、「こっちゃハゲに死ぬほど、しごかれてんだよ―――」
なんて言っているのが面白いと同時に、ダヴーによる訓練の苛烈さと、
ゆえに強い軍隊ができあがっていることを理解させてくれますね。
なおかつ、ダヴー自身の指揮能力の高さも加わって、
それが、かつてのイタリア遠征における、ナポレオンの指揮と重なっていたのは印象的。
それだけの活躍を、ダヴーは成し遂げたということ。
ギュダン・フリアン・モランという「不滅の3人」と呼ばれた部下も奮戦し、
倍以上の敵を相手に引けをとらないどころか、むしろ自軍を優勢へ傾かせるとは、
フランス軍を支えた兵士たちの士気・実力の高さもあるのでしょうが、
ダヴーは、もはや名将と呼んでも差し支えないほどの人物だと、言えるかもしれません。
一方、プロシア軍の司令官ブラウンシュヴァイク公。
彼もまた、ダヴーの軍を主力だと勘違いしているのが可笑しかったりしますけど、
そこへ、一撃を加える男が1人・・・ ビクトルさん!?
恒例のビクトル撃ちが、ここでも炸裂!
またも大物を食ってしまうビクトル撃ち、すごすぎでしょー!!
ただ、この描写、もちろん「史実」ではないのでしょうけども、
それでも歴史を描くうえでは、とても意味深いものだと感じています。
と言うのも歴史は、その時代ごとの権力者が中心になって動かしてはいるのですが、
それでも、歴史に名前の残らない多くの人々が参加し、時代時代を作り上げていて、
そうした“名もなき一兵卒”の行動が、事態を大きく変えてしまったりもするわけですよね。
この“歴史に名前の残らない人間”の姿を体現し、象徴しているのが、
本作におけるビクトルというキャラクターなのだと、よくわかる場面でしたよ!
だからこそ、彼の活躍にたぎるものを感じずにはいられない!
この行動の結果、プロシア軍は指揮系統が乱れ、後任となるべき人物が不在だったため、
フランス軍有利な状況へと流れてゆくのだから、もう痛快でしたよ。
“名もなき一兵卒”の弾丸が、勝利への道を切り開いたわけですからね・・・
勝てる戦いではなかったはず・・・
それでも勝利を得たダヴーのすごさは、一言では言い表せないほど。
ではありますが、ここでダヴーの髪の毛が抜けているのは、
それだけ彼にかかったプレッシャーが大きかったことの表れ。
「まるで機械」なんて言われるダヴーも、やはり人間なのだと思えますね。
と同時に、その重圧を表に出さなかった彼が、いかに偉大であるかも感じさせてくれます。
倍以上の敵に勝利したアウエルシュタットの戦いは、
ナポレオンが関わった戦争の中でも、かなり特異なもの。
ナポレオン自身が、「俺ですらできたかどうか」と考えてしまうくらいで、
だからこそ、“不敗のダヴー”という呼び名も、違和感なく受け入れられるというものです。
いや、とにかく素晴らしかった! ダヴーすごい!
ベルナドットへの処分。
アウエルシュタットの戦いは、ダヴーとその軍団の活躍により勝利となったものの、
その際、援軍に向かうべきベルナドットの軍が、駆け付けなかったことが問題視されます。
ベルティエさんの嫉妬もからんで、面白いことになりそうだったベルナドットへの処分。
しかし、1度は軍法会議にかけようとまで考えたナポレオンも、
自分のミスを言い訳に、その処分を見送っていたのが、意外というか何と言うか・・・
まあ、「自分のミス」は口実で、実はベルナドットの妻・デジレへ配慮しているのですが(^^;
ナポレオンのデジレに対する後ろめたさが、ハッキリ示されていたため、
この件に関する納得感はありましたけど、「こんなちっちぇーこと気にする」ナポレオンは、
ちょっと珍しい感じでしたね~。 ま、そんな所も「男」って感じではありますが。
などなど、アウエルシュタットの戦いにおける、ダヴーの活躍が描かれた今回。
フリードリッヒ大王の墓所を訪れるナポレオンと、アレクサンドル1世との対比や、
プロシア軍変革への序幕、それに伴う兵士たちの“お礼参り”など、
他にも書きたいこと色々でしたけど、駄文猛省すぎなので、このあたりで・・・
次号は巻頭カラーとのことですが、表紙が『清々と』となると、恒例の表紙サギが?
そんなことも気にしつつ、今後も楽しみです!