人は何かを残したい願望がある。
中国王朝は家族の利益が優先。贅沢な暮し、泰の始皇帝のように生
前から30年以上の月日をかけて70万人を雇い等身大の7,000人
の兵士のテラコッタを作り死後も守らせた。
アラブ人の埋葬は砂漠に埋め、石ころひとつしるしに置き、風が吹
き、砂が舞いやがて誰もわからなくなり、自然に帰るのだそうだ。
この方がロマンチックだと思う。ユダヤ人は亡くなると死骸は24時間
以内に埋葬するのが決まり。お墓に花は禁物。後かたずけが大変だ
からだそうだ。土地を持たない民族の英知なのだろうか。できたらお
墓まで行ってあげるのが友情。
できない人のために1週間、家を開放し、食べ物がテーブルに山のよ
うに置かれる。この1週間以内に家族の悲しみを慰める習慣がある。
もろんお金をあげる習慣はない。
南博先生は人生を教わった私の恩師である。女優の東恵美子さん
と友人であるため彼女が住んでいる四谷大京町の同じアパートに住ん
でいた関係で南先生とも、ラッキーなことに、親しく多様性のある思考
の仕方や暮らしのエッセンスを教えていただいた。
生前から先生は東さんにお墓も葬儀もいらないと話していた。先生の
死後、沖縄の海に骨を流したり、「夜な夜な先生の骨をすり鉢で粉にし
ていたのよ」と東さんはけらけらと笑った。先生のお好きなニューヨーク
にやってきて、セントラルパークに3箇所に秘密裡に二人で先生の骨を
埋めた。といっても骨の粉を落として埋め、その上に近くのパークの野
の花を数本飾っただけののべの送り。 1か所は先生の学んだコーネ
ル大学の心理学研究室の前の桜の樹の下に埋めた。そのたびに東さ
んは「先生は本当にお幸せな方よ。安かにお休みくださいね」 と涙ぐん
だ。散歩の度に「こんにちは先生」と声をかけ、ストロンベリーパークで
数個つまんだイチゴなども添えている。ある日はお花が一杯置いてあ
ったので驚いたこともある。
チェリーヒル広場にあるこの大木はパークの中でも最も美しい樹の
ひとつ。私のお友達の樹。必ず立ち止まって眺め、四季を通して大木
に両手まわして樹を抱きかかえ深呼吸して、樹気を吸い込む。
先生は樹と共に今も心に生きている。