mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

いまどき「社員旅行」?

2018-01-22 11:56:47 | 日記
 
 一昨日(1/20)から「ささらほうさら」の合宿。今回は初めて福島県の新野地温泉に足を運んだ。まだ現役の方がいるので、土~日に設定している。njさんは朝になって突然の不調。右脚が不自由な彼の利き足である左脚が「しびれ」、痛みを伴って歩けなくなったとのこと。人の身体というのは、バランスを保って「身」を支え続けようと全力を挙げているのだとわかる。彼の脚を気遣い、現地まで車で入ることになっていたwksさんが迎えに行ったとき、njさんは玄関まで出てくることもできないほど弱っていたという。他方、12月の例会に欠席したmsokさんが咳き込みながらも参加。参加しようという意気込みでもないと、そのまんまクタバッテシマウと笑いながら話す。
 
 雪の気配のない福島駅を降りたとき、西の方に雪を頂いた峰々が南北に青空を遮る。北側のが吾妻小富士と一切教山、南側の峰が山頂の丸い箕輪山と尖った鬼面山。新野地温泉は、その鬼面山の懐にある。迎えのマイクロバスで福島駅から32kmを送迎してくれる。裏磐梯への主要道と道を分け、標高1200m近い野地温泉方面に右折すると、途端に路面を雪が覆っている。空は快晴だから、青と白のコントラストが葉を落としたブナの木立の林立と相まって冬山の雰囲気を強く醸し出す。道の山側には背の高さを超える雪が壁をつくり、奥深く入り込んだ感触が漂う。湯けむりが見えるころ、野地温泉の大きな宿の前を通る。駐車場にはたくさんの車が止まっている。土曜日だからネと言葉を交わす。その先の新野地温泉相模屋が今日の宿。駅から40分ほどで着いた。
 学事開始までに2時間以上ある。さっそく風呂に向かう。晴れているから、外
の露天風呂が気持ちいい。以前、強い風に雪が舞っている中この露天風呂に入ろうと来てみたら、湯温が熱く、とても入れない。震えながら懸命に、脇に降り積もった雪を湯船に投げ込んでかろうじて体を浸けたことが思い起こされる。今日は事前に調整してあってか、ほどよい。krさんは1時間も露天風呂で過ごしていたらしい。msokさんは、露天風呂への板敷の傾斜の上りがきついとみて、その入口にある内風呂に浸かっている。彼は肺を痛めていて、すぐに息が切れる。あとで聞いたが、内風呂の「効能書き」には「肺気腫、肺疾患に効く」とあったそうだ。肺疾患とはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のことらしい。呼吸の出し入れが厳しくなり、すぐに息が切れる。と同時に、「注意書き」には「心臓病の方が入るのは注意」とあったそうだ。彼はペースメーカーを入れている。どっちをとるかだねと笑いながら話すが、この湯が気に入ったらしい。その後も何度か湯船へ足を運んでいた。「njさんにも効くかもしれないね」と誰かが言う。
 
 それでもまだ時間がある。持ち込んだビールで一杯やる。すっかりくつろいで「学事」に入る。krさんの用意したプリントで社会学の泰斗・マックスウェーバーの「権力と支配」の「第二部・官僚制」を軸に、彼の体験途上の教育行政に関する変化と問題を俎上に上げる。その様子はまたの機会にでもお話ししよう。みっちり3時間、くたびれもせずやりとりを交わし、「ささらほうさら」の意気軒昂ぶりを示していた。外は風が強い。雪が舞う。「これ、吹雪っていってもいい?」と誰かが私に訊く。「なに風が強いだけ。まだ視界があるもの」と応じて、雪の少ない埼玉の平地からきた好奇心を感じる。
 
 夕食は私たちだけの会場で、宴会風にはじまる。ビールも頼んだが、どちらかというと日本酒の冷酒。kwrさんが数本注文し、さらにのちに数本追加し、空けた。さらさらと呑みやすいおいしいお酒であった。料理の方も、会席膳風に、しかし福島牛やイワナの塩焼きも含め、手の込んだ品々が並ぶ。お腹がいっぱいになり、私はご飯を頂戴しなかった。
 
 部屋に戻りひと休みし、あるいはひと風呂浴びて、近況報告。といっても、毎月会っているから、一人一題の「小話」の会のようだ。小話と言っても、面白いかどうかは突っ込みの入り具合による。お酒も飲んだが私は、それ以上に水をとることを気にしていた。脱水症状が起きないように、部屋の暑い暖房にも負けないようにしなくてはならない。私が床に就いたのは10時半を回っていた。夜中の2時ころ一度トイレに立ったが、目が覚めると6時半過ぎ。体にお酒は残っていない。吸収しきれないほど飲めなくなったのか、お酒が良くてすっかり消化したのか。朝風呂に行く。
 
 部屋の窓から露天風呂に人がいることはみえたが、寒い中を敬遠して内風呂に向かう。二人、見知らぬ客が入っている。こちらも熱さがほどよい。10分ほど浸かり身体があったまる。その温さが持続するのが、温泉の不思議なところだ。大広間の朝食に足を運んで、お客の多さに驚いた。私も含めると50人近くが泊まっていたのだ。それにしては静かな佇まいであった。五十年配の方々の、職場の社員旅行だろうか。土日だから、ね。「いまどき(社員旅行なんて)珍しいね」というと、「いや、近ごろは、そういうこともしなくちゃならないって、経営の指導法に入っているらしい」と誰かが口を挟む。でも多くの皆さんは朝方帰っていったから、車でやってきて、風呂に浸かって一杯やって、日曜日の午後は家族と過ごすってわけか。
 
 御膳は、小鉢が並び、品数の多さに「こんなに朝食べることをしないから」と驚嘆している。昔がどうであったかあまり覚えていないが、これほどこまごまと手を加えていたという記憶がない。どちらかというと、山小屋風の田舎風、ぶっきらぼうだが暖かい心遣いという雰囲気だったように思う。それが、調理も丁寧だしデザートも加わっているし、セルフとは言えコーヒーなども用意されて足りないことがない。これでこの料金ではねと、誰かが口にする。やっていけるのかと心配していたのだが、このお客の人数をみて、得心している。何より、裏方を担当している人手がずいぶんいたんだとわかる。家族経営的な格好だが、若い女将夫婦が引き継いでから、いわゆる「秘湯の会」的な古風な経営ばかりでなく、清潔でさっぱりした佇まいと、料理に心遣いを込めている気配が感じられる。
 
 朝食のあと、裏山のブナ林の雪山を歩くことにしていた。1時間ほど歩いてひと風呂浴びてから「学事」にしようというわけ。スノーシューや長靴は宿が貸してくれる。案内は私が担当する。おおよそ標高差で150mほどを上って箕輪山や稜線の向こうの横向スキー場が見えるところまで行き、帰りの急斜面を歩く楽しさを味わってもらおうとコースを選んだ。だが寒いのと、身体の故障があるのと、風呂の方がいいのと、あれこれあって、出かけたわずか3人。降りつもった新雪を踏んでブナの大木が立ち並ぶ林を稜線へ向かう。いつもなら雪面に残るテンやウサギ、キツネなど獣の足跡も見当たらない。好天が続いていたのだろうか、雪は良く締まっていて、それほどラッセルの力が要らない。10分ほどで稜線に出る。尾根の向こう側の横向を走る国道が雪の原に流れるような踏み跡をつくり、トラックが走っている。その向こうの裏磐梯の方は、雲に閉ざされている。風が強い。今度は稜線に沿って鬼面山の方向へ向かう。木の枝が邪魔をするから、右へ左へよけながらルートを探る。急な斜面を上ると目標点の反射板が見える。電波の受けと跳ね返しをして、遠方の山頂にしつらえられた反射板へ送り届ける送電伝達板だ。自衛隊のか総務省のか民間のかはわからない。鬼面山はうっすらとそのかたちをみせている。箕輪山は雲の中に隠れて、形が見えない。
 
 若いwksさんは、スキーでくれば面白いねとご満悦だ。kwrさんはマイペースを守って着実に歩く。この反射板ところで、トップを入れ替わる。下山はこの方向、と大雑把に示して歩いてきたのとは違う下りをとる。ここは樹木がそれほどない急斜面だ。wksさんは横にスッテプを切るのかと聞くが、あなたならまっすぐに下へ向かって踏み出す方が面白いよと返す。下へ踏みだすとずるずると滑り落ちる。kwrさんも踏み出す。勢いがついて、身体が下へ急ぐ。脚が踏み止れないが、転倒するのを避けようと腰が引ける。今度は脚を先にしてしりもちをつく。そのまんま少し下へ滑る。面白い。まっすぐ下れば登るときの踏み跡にぶつかるからというと、wksさんは気分よく歩を進める。kwrさんも、自分の踏み跡をつくるように雪に足跡を刻んで、降る。こうして、ほぼ予定の時間で宿に帰り着いた。帰り着いたころから雪の降りが強くなり、「いい時間に戻ってきましたね」と声をかけられ、そちらをふと見ると、八郎さんという登山家で、宿の元主人。元気そのものであった。
 
 ひと風呂浴び、荷物をまとめて「学事」をはじめる。10時。レベッカ・ソルニックの『ウォークス――歩くことの精神史』(左右社、2017年)の一節を読み合せる。「歩行とは自己の身体を世界との関係において理解する経験である」というフッサールの提示したモチーフを、モデル化と抽象化と普遍化によって身体から飛翔してしまった近代哲学批判のように展開している面白い論考と、國分功一郎『中動態の世界』の末尾の一章を読み合せる。この内容についてもまた、機会があれば、触れよう。
 
 「学事」の途中でお昼が来た。牛丼。冷めては何だからと、「学事」を中断して30分ほどかけていただき、終了後に再開。結局12時半までしっかりと勉強してしまった。二組の人たちが、やはり出発するところであった。一組は小さな子ども二人をつれた家族。この宿の縁戚の人なのであろうか。もう一組は、自家用車で来ていた一組の夫婦。その人たちを見送ってから、1時ころに宿のマイクロバスを出してもらい、福島駅に向かう。雪が降りしきり、前が見なくなるほど。対向車が結構あって、運転手も慎重だ。日帰りで温泉にやってくる人たちなのかと思ったりする。道の傍らに軽自動車が一題止まっている。誰もいない。「あれは故障車、昨日ですよ」と運転手が言う。主要国道に出ても路面は積雪している。前の車が始終ストップランプを踏みながらゆっくり進む。その前のトラックが、同様に慎重に下っている。やがて路面の雪がなくなるころ、スピードが上がり、45分で駅に着いた。
 
 土産を買う人は買い、私は座席がkwrさんと隣り合っていたから、会津の大吟醸酒と小さなプラスティックのコップを手に入れ、大宮までの1時間余をおしゃべりしながら、よく呑んだ。だが、気分爽快に、いま、こうやって書き込みをしている。