自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★能登さいはての国際芸術祭を巡る~7 伝統の生業がアート

2023年10月18日 | ⇒トピック往来

   能登半島の最先端、珠洲市には伝統の生業(なりわい)が息づいている。それをモチーフにした芸術作品が展示されている。地場に古くから伝わる生業の一つが珠洲焼。現在30人ほどの作家が伝統の技法に新たな感性を加えて作品づくりを行っている。芸術祭の作品鑑賞に訪れた際も、「珠洲焼まつり」が開催されていて、20人余りの作家が出品していた。

   作品『漂移する風景』(リュウ・ジャンファ=中国)=写真・上=。珠洲焼は室町時代から地域の生業として焼かれ、中世日本を代表する焼き物として知られていた。そこで、作者は中国の第一の陶都・景徳鎮から取り寄せた磁器の破片と、珠洲焼の破片を混在させ、大陸との交流や文化のあり方を問う作品として仕上げた。2017年の第一回芸術祭では、海から流れ着いたかのように見附島近くの海岸に並べられ、第二回からは珠洲焼資料館に場所を移して恒久設置されている。

   珠洲焼はかつて地域経済の貿易品だった。各地へ船で運ぶ際に船が難破したこともたびたびあったようだ。海底に何百年と眠っていた壺やかめが漁船の底引き網に引っ掛かり、時を超えて揚がってくることがある。古陶は「海揚がりの珠洲焼」として骨董の収集家の間には重宝されている。

   塩づくりも当地の生業の一つ。このブログのシリーズの初回で取り上げた作品『時を運ぶ船』(塩田千春氏=日本/ドイツ)=写真・中=は公式ガイドブックの表紙を飾るなどシンボル的な作品だ。この作品も2017年の第一回芸術祭で制作されたものだが、観賞するたびに感動を覚える。

   作者は珠洲を訪れ、400年続くとされる揚げ浜式塩田にモチベーションを感じ取った。作品名を着想したのは、塩づくりをする、ある浜士(はまじ)の物語だった。戦時中、角花菊太郎という浜士が軍から塩づくりを命じられ、出征を免れた。戦争で多くの塩田の仲間が命を落とし、角花浜士は「命ある限り塩田を守る」と決意する。戦後間もなくして、浜士はたった一人となったが、伝統の製塩技法を守り抜き、珠洲の塩田復興に大きく貢献することになる。技と時を背負い生き抜いた人生のドラマに、作者・塩田千春の創作意欲が着火したのだという。会場のボランティアガイドから聞いた話だ。

   『時を運ぶ船』の赤い毛糸は強烈なイメージだが、珠洲市を含む奥能登では、古くから秋祭りに親戚や友人、知人を自宅に招いてご馳走でもてなす「よばれ」という風習がある。そのときに使われるのが、漆塗りの赤御膳。刺し身や煮付のなどの料理が赤御膳で出てくると、もてなしの気持ちがぐっと伝わってくる。珠洲市の民宿で泊まったときも、夕食で出されたのは赤御膳だった=写真・下=。能登では赤はもてなしのシンボルカラーなのかもしれない。

⇒18日(水)午後・金沢の天気   はれ

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☆能登さいはての国際芸術祭を巡る~6 人生の生き様アート

2023年10月17日 | ⇒トピック往来

   奥能登国際芸術祭では多様なモチーフの芸術作品が展示されているが、「人生の生き様」をテーマにしたものもある。作品は『プレイス・ビヨンド』(弓指寛治氏=日本)。芸術祭の総合プロデューサーである北川フラム氏の案内で作品を鑑賞するチャンスを得た。 

   作品鑑賞のスタートは珠洲市の木ノ浦野営場というキャンプ広場。岬にある自然歩道を歩くが、真下は崖と海。急斜面の山道などを歩きながら作品を見ることになる。入り口の作品ナンバーの立て札に注意書きがあり、「暗くなってからの鑑賞は危険です」「猪に出会ったら静かにその場を離れましょう」などと書かれてあり、少し緊張感が走る。

   作品は指定された道沿いに設置してある立て札の文章=写真・上=を読みながら進んでいく。作品は、作者の弓指寛治氏が珠洲の地元で生まれ育った南方寳作(なんぽう・ほうさく)という人物=写真・中=が生前に残した伝記をもとに制作した。戦前に人々はなぜ満蒙開拓のために大陸に渡ったのか、そして軍人に志願したのか、どのような戦争だったのかを、立て札の文字をたどりながら、設置されている絵画を見ながら追体験していく。ただ、ストーリーが記された立て札は87枚、絵画は50点もある。立て札一枚一枚を読んで、さらに絵を鑑賞していると、いつの間にか時間が経って辺りが暗くなるのではと気にしながら読んでいく。

   南方寳作が9歳のとき、1931年の満州事変が起きた。当時、農村には過剰な人口と貧困がはびこり、日本政府は国策として、農村部の若者たちを中国・東北部の満州に開拓団として送り込んだ。南方寳作もその一人だった。その後、南方寳作は海軍に志願して水兵として戦地に赴く=写真・下=。1945年8月9日にソ連が対日参戦し、同月15日に終戦となる。ソ連の侵攻で満州は戦場と化し、開拓団は置き去りにされた。

   作品はそのときの南方寳作の気持ちを綴っている。「満州で生活し、厳冬の経験がある私はこれから急激な寒気が訪れる満州のことを思うととても不安になった。無事帰国できることを祈るのみ。満蒙開拓の夢も軍人としての地位も、敗戦と共に遥か遠い雲の彼方へ消え失せた」

   作品めぐりの終盤、歩道は三差路に分かれる。どの道を進むか、鑑賞者が選択する。そのとき、突然に強い雨が降ってきた。山の坂道だ。ガイド役として先頭を歩いていた北川フラム氏が滑って膝をついた。参加者が「先生、大丈夫ですか」と両脇を抱えると、北川氏は「ありがとう」と言い立ち上がった。通り雨ですぐ止んだ。一瞬の出来事だった。作品の内容、そして北川氏の転び。緊張感のある作品めぐりとなった。
 
⇒17日(火)夜・金沢の天気    はれ
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★能登さいはての国際芸術祭を巡る~5 民家でアート

2023年10月16日 | ⇒トピック往来

  民家や蔵、倉庫を活用したアートをいくつか巡った。その一つが作品名『流転』=写真・上=。イランのシリアン・アベディニラッド氏はかつての漁具倉庫を展示会場に選んだ。倉庫には大量の漁網などが保管されていた。その漁網を倉庫の天井に張りめぐ らした。

   漁網の内側にキラキラとカラフルに光るものがあり、床に影が投影されている。よく見ると、酒瓶などのガラスの破片だ。説明書によると、作者は珠洲市の海岸に打ち寄せられているガラス類の破片を集めて作品に仕上げた。使われなくなった漁網、そして破片となったガラスを見事にアート作品として再生した。倉庫の外観はさびたトタンだ。中に入ると、異次元の世界に迷い込んだような錯覚に陥る。不思議な芸術空間ではある。

   薄暗い古民家の奥に進むと、和室の中央に朱漆と黒漆がまじりあったような立体作品が浮かぶ。作品名『触生』は田中信行氏(日本)の作品=写真・中=。部屋の中に入って見ることはできないが、漆の強い存在感が引き立っている。漆は英語で「japan」と呼ばれるように縄文時代から日本人は重宝してきた。作者はその漆と人のつながりの原点を描き出そうとしているのではないだろうか、と直感した。

   作者が「触生~赤の痕跡~」とのタイトルでコメントを文字で掲げている。「漆が私の本能を刺激し、意識を原初へと導き、制作へと駆り立てている。黒漆からは流れるような立ち上がった立体を、朱漆からは生の痕跡を塗りこめたような絵画的な表現を。塗りと研ぎを繰り返しながら生まれる漆の表現は、人為を超えて私自身を、そして見る者を無意識へと誘う。立ち上がった漆面は、鑑賞者を漆黒の闇に吸い込むかのように、日常と非日常の境界として空間に存在する」

   山中にある、10年ほど前に空き家となった民家。玄関の入り口には広い土間があり、おそらく収穫した稲や野菜などを広げていただろう。作品の『Future Past 2323』(原嶋亮輔氏=日本)は民家と民具をテーマとしている=写真・下=。長い時間(とき)を経た民具には魂が宿るとされる付喪神(つくもがみ)信仰がある。道具に宿る付喪神をアートにした、のではないだろうか。

   そう感じたのは、稲わらで編んだ蓑(みの)と菅笠(すげがさ)が奥座敷で飾られているのを鑑賞したときだった。家人が身に着けたものにこそ魂が宿り、そして輝きを放つのだ、と。このインスタレーションがそう訴えているように思えた。

⇒16日(月)夜・金沢の天気   くもり

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☆能登さいはての国際芸術祭を巡る~4 空がアート

2023年10月15日 | ⇒トピック往来

   今月14、15日と能登半島の尖端、珠洲市で開催されている「奥能登国際芸術祭2023」の作品鑑賞に行ってきた。その作品の感想をいくつか紹介する。先月に3回シリーズで紹介した「能登さいはての国際芸術祭を巡る」の続きを。

   能登半島全体で74基の大型風車がある。うち、珠洲市では30基の風車が回る。ブレイド(羽根)の長さは34㍍で、1500KW(㌔㍗)の発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。能登半島の沿岸部、特に北側と西側は年間の平均風速が6㍍/秒を超え、一部には平均8㍍/秒の強風が吹く場所もあり、風力発電には最適の立地条件なのだ。

   この珠洲の山の上(標高300-400㍍)にある風車群をアートにしたのが、日本のグループ「SIDE CORE」の作品『Blowin‘ In The Wind』。車で曲がりくねった山道を登る。頂上付近に近づくとブォーン、ブォーンと音がする。ブレイドが回転している。山のふもとから見上げると小さな風車だが、近づくことでその大きさに驚く。

   その風車の下には作品の5点が設置されていた。風の動きによって動く風向計のようなもの、いわゆる「風見鶏」だ。上の写真は自転車と道路の崖をイメージした作品。風が出ると風車と風見鶏がいっしょに風に向って動き出す。そう考えると、風車も巨大な風見鶏のようだ。  

   この風景を眺めていて、ふと若いころに歌ったボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさんだ。「風に吹かれて」の英名は『Blowin‘ In The Wind』。作品名と同じ。作者たちもこの歌を口ずさみながら制作したのかと思ったりした。

   珠洲市の外浦の海岸は大陸に面していて、強い風が吹く。海岸を見下ろすがけの上に船の帆をモチーフにした作品が現れる=写真・中=。作品名『TENGAI』(アレクサンドル・ポノマリョフ氏=旧ソ連「ドニプロ」/ロシア)。風が吹くと帆柱の網が振動して、下の酒タンクが共鳴してハープのように風の音を響かせる。まるで空の音色だ。珠洲の対岸にあるのはロシアのウラジオストクなので、作者は「大陸からの風で鳴る」との想いを込めているようだ。

   作品を鑑賞するために里山や里海を移動する。ふと空を見上げると、見事な「うろこ雲」が空を覆っていた=写真・下=。これも空のアートだと直感してシャッターを押した(撮影は14日午後4時39分・珠洲市内)。

⇒15日(日)夜・金沢の天気    はれ

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★「まるで独裁者の宴」詭弁を弄するロシア大統領

2023年10月14日 | ⇒ニュース走査

    ロシアがまた詭弁を弄している。イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの戦闘激化を受け、国連安全保障理事会は今月13日、非公開で対応を協議した。 会合ではロシアが人道的停戦を要求する決議案を配布。ロシアのネベンジャ国連大使は会合後、報道陣を前に「安保理はこの流血に終止符を打つため行動しなくてはならない」と主張。決議案は全ての暴力とテロ行為を非難し、人道支援の円滑な提供を求める内容で、ネベンジャ国連大使は全国連加盟国に対し共同提案国になるよう呼び掛けた(14日付・時事通信Web版)。

   ロシアが国連安保理で他国の停戦を呼びかけ、一方で自国はウクライナへの侵略行為を続けている。まったく説得力のない決議案で、共同提案国になる必要はない。以下、憶測だが、ネベンジャ国連大使の決議案はウクライナ侵攻から他国の目を逸らし、自らを正当化する策ではないか。おそらくこの決議案はプーチン大統領の命令によるものだろう。

   ウクライナのゼレンスキー政権をネオナチ政権と呼び、その侵攻を「祖国の未来のため、ナチスを復活させないための戦い」と強調し、侵攻を始めた。相手をナチス呼ばわりすれば、武力侵攻などすべてのことが正当化されるとの詭弁だ。国連安保理での決議案も、自ら始めた戦争を棚に上げて他国の戦争を非難する。まさに、プーチン大統領の「独裁者の宴」のようだ。    

  ICC(国際刑事裁判所)はことし3月、プーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表について、ウクライナ侵攻で占領した地域の児童養護施設などから少なくとも何百人もの子どもたちロシアに連れ去ったとして、国際法上の戦争犯罪の疑いで逮捕状を出した(3月18日付・NHKニュースWeb版)。同日のCNNニュースWeb版日本語によると、ゼレンスキー大統領はICCの逮捕状について、「我が国の法執行当局で進行中の刑事手続きでは、ウクライナの子ども1万6000人以上が占領者(ロシア)によって強制連行されたことが既に確認されている」と述べている。   

   一方、ロシア側は戦闘地域から子どもを「保護している」と主張している。保護を理由に子どもたちをロシアに連れて行く行為。まるで、子どもたちを「戦利品」のように扱っている。

(※写真は、第二次世界大戦での対ドイツ戦勝記念日式典で演説を行ったプーチン大統領。相手をナチス呼ばわりして武力侵攻を正当化した=2022年5月9日付・BBCニュースWeb版)

⇒14日(土)夜・能登の天気    くもり

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☆「まるで独裁者の宴」旧統一教会の総裁とジャニー喜多川

2023年10月13日 | ⇒ニュース走査

   宗教の名を借りた巨大な集金システムだろう。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の教団トップの韓鶴子総裁がことし6月末、教団内部の集会で「日本は第2次世界大戦の戦犯国家で、罪を犯した国だ。賠償をしないといけない」「日本の政治は滅ぶしかないだろう」と発言していたことが、関係者への取材や音声データで分かった。教団側は6月中旬までに、年間数百億円にも上るとされる日本から韓国への送金を今後取りやめると説明していたが、トップが依然、韓国への経済的な見返りを正当化したことになる(7月3日付・共同通信Web版)。日本に戦前の罪を押し付け、信者からの「賠償金」を独り占めするという集金システムだ。

   金にまつわる話はそれだけではない。韓総裁と教団幹部らが2008年から11年にかけてアメリカ・ラスベガスのカジノを訪れ、日本円に換算して64億円もの金をギャンブルに注ぎ込んで、9億円の損失を出していた疑いがあることが分かった(アメリカ国防総省DIAのリポート)。教団のトップである韓総裁がギャンブルに興じていた疑いが浮上しているのだ(週刊文春・2022年11月10日号)。そのギャンブルの原資は、日本の信者による献金や霊感商法によって収奪された財産であることは容易に想像がつく。

   メディアの報道によると、旧統一教会をめぐる問題で文部科学省はきのう12日、宗教法人審議会を開き、教団の解散命令を請求することについて全会一致で「相当だ」と意見を得たとして、解散命令の請求を正式に決定し、きょう13日に東京地裁に請求した。それにしても、上記のラスベガスで64億円もの金をギャンブルに使うとはまるで「独裁者の宴」のような話だ。

   そうイメージしてみると、ジャニー喜多川も同じだ。少年に対する性加害は自宅兼合宿所や公演先のホテルなどで行われていたことになっていたが、仕事先のNHKでも性加害に手を染めていたという(10月9日付・NHKニュース)。ところかまわずやりたい放題、これもまるで「独裁者の宴」だ。

⇒13日(金)夕・金沢の天気    はれ

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★ゲノム情報が健康管理に活用できる時代に

2023年10月12日 | ⇒トピック往来

   先日、能登半島の真ん中にある志賀町で開催された「健康づくり講演会」を聴き行った。講演の一つ、「ゲノムは人類の共有財産~ゲノム情報が健康管理に活用できる時代に~」のタイトルに興味がそそられた。

   人は誰もが遺伝情報(ゲノム)を持つ。親の病気を知ると、自身にも遺伝性の病気にやがて罹ると思ったりする。「ゲノム」という言葉を意識したのは10年前の2013年。アメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーが公表した乳がん治療だった。母親が乳がんで命を落としたことをきっかけに自ら遺伝子検査を行い、発症率が高いことが判明したことから、予防のために両乳房を切除・再建手術を行った。日本でも大きく報じられ、遺伝カウセリングや遺伝子検査が広まるきっかけとなった。そして、ことし6月には遺伝情報に基づき患者に応じた治療を推進する「ゲノム医療法」が国会で成立し、遺伝医療に弾みがついた。

   志賀町でゲノムの講演会が開かれたのも理由がある。2011年から金沢大学の予防医学による住民の健康の維持と増進に取り組むための調査研究が行われてきた。2019年度からは「スーパー予防医学検診」のプロジェクトが始まり、定点観測的にデータを収集し、さらに遺伝子検査など行い、個人に合わせた保健指導プログラムを開発している。講演会は調査に協力している住民へのフィードバックの意味を込めている。

   冒頭のタイトルで講演したのは金沢大学附属病院遺伝診療部の渡邊淳部長=写真=。人体の細胞の中にはヒトの遺伝情報を保存しているDNAが含まれていて、DNAは細胞の中の染色体と呼ばれる物質の中で折りたたまれている。ヒトは父と母からそれぞれ1組の染色体のセット(22本の常染色体と1本の性染色体)をもらうので、1つの細胞には2セットの染色体が入っている。ただ、DNAは必ずしも安定した存在ではなく、さまざまな要因により変化し、病気の発症と関連するものは「ゲノム異常」とも呼ばれる。

   遺伝子が関わる病気は多岐にわたる。がんや糖尿病などを含めると、およそ9割が生涯に何らかの遺伝性疾患に罹るとの説明があった。がんは遺伝すると思いがちだが、ゲノム異常で起きる病気と遺伝する病気はイコールではないこと、がんと遺伝に関しては正しく理解することが必要、と。ただ、患者が治療で医師から説明を受ける際、専門性の高い用語が使われることが多い。どう患者や家族に理解してもうらうのか。その取り組みの一つとして、「遺伝カウンセラー」の話があった。ゲノム医療を受ける患者と医師の間に立って、患者側を支援する人材だ。金沢大学では2021年度から遺伝カウンセラーの養成を行っている。

   ゲノム医療では遺伝情報を調べることで患者の最適な治療薬の選択につながる。一方で、予め病気のリスクがわかるため、医療保険の加入や就職などで差別や不利益を受けることにもなりかねないので、医療側は徹底した情報管理が問われる、と。最後に、2002年のノーベル生理学・医学賞を受けたジョン・サルストン(イギリス)の言葉を引用して講演が締めくくられた。「人間の出発点となるゲノムは、各人にとっての制約ではなく、むしろ可能性ととらえるべきである」

⇒12日(木)午後・金沢の天気   はれ時々くもり

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☆金沢でクマに襲われ人身被害 どうするリスク管理

2023年10月11日 | ⇒ニュース走査

   今月8日付のブログで「10月に入ると、クマの出没が多くなる」と述べたが、その翌日の9日の早朝に金沢市の大乗寺丘陵公園=写真・上=で、遊歩道を1人でウオーキングしていた80代の男性がクマに襲われる人身被害があり、大きなニュース(11日付)になっている=写真・中=。石川県生活環境部では、「ツキノワグマ出没注意情報」を出して、注意を呼びかけている。

   報道によると、男性は額や右腕をけがしたものの、命に別状はないとのこと。近くを通りかかった男性の知人が119番通報をした。警察などが付近を調べたところ、現場から200㍍ほど離れたところでクマのフンが見つかり、その大きさから体長1㍍ほどの成獣と推定されるという。丘陵公園の周辺では今月に入って、4日と6日、8日にも目撃情報が県生活環境部に寄せられていた。

   けさ現場に行くと、「クマ注意」のプレートがあちらこちらにかかげられていた=写真・下=。大乗寺丘陵公園は住宅地に近い丘陵地で、周囲には小学校や中学校、大学もある。また、野田山墓地という市営墓地なども広がっていて、クマの出没はこの時季の最大のリスクかもしれない。近くの小学校や中学校では、児童・生徒に鈴の貸し出しを行っていて、「クマと遭遇しても大声を出さない」「複数人で登下校する」などの注意指導を行っているようだ。

   もともと丘陵公園周辺にはクマは生息していなかった。クマの目撃情報がニュースになるようになったのは、2000年代からではないだろうか。クマはもともと奥山と呼ばれる山の高地で生息している。ところが、エサ不足に加え、中山間地(里山)での人口減少が進み荒れ放題になった。人里近くに隠れ場所となる茂みが増えるなどクマが生息できる環境が広がっていると言える。そして、丘陵公園の周辺ではリンゴや柿などの果樹栽培も行わていて、この周辺での出没が近年増えていた。

   クマの行動域は25㌔から100㌔がテリトリーとされているが、ドングリなどのエサが不作のときのはさらに行動範囲を拡大することで知られる。県生活環境部自然環境課がことし8月中旬から9月上旬にかけて実施した「ツキノワグマのエサ資源調査」によると、金沢市は「豊作」「並作」だが、周辺の地域では「凶作」や「大凶作」のところもある。エサを求めてクマたちが金沢に群がってくるのではないか。そんなことを懸念したりする。

⇒11日(水)夕・金沢の天気    はれ      

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★街路を彩る花、ムクゲ、ヒガンバナ

2023年10月10日 | ⇒トピック往来

   10月も半ばに入った。自宅近くの県道を歩くと、道路沿いにムクゲの花が競うように咲いている=写真・上=。真っ白な「祇園守」だ。花の中心部のシベが十文字になっていて、京都の八坂神社の護符の「祇園守」と似ているところから名付けられたとの説もあるが定かではない。清楚な花で、茶花として重宝される。ムクゲは梅雨の頃から咲き始めて夏に盛りを迎える。もうそろそろ見納めの頃だ。

   芭蕉の句がある。「道のべの木槿は馬にくはれけり」。道ばたのムクゲの花を馬がぱくりと食べた。芭蕉はその一瞬の出来事に驚いたかもしれない。花であっても、いつ何どき厄(やく)に会うかもしれない、と。中古車販売の「ビッグモーター」の店舗前の街路樹や植え込みのように、抜かれたり枯らされたりすることがないことを願う。

   道路の対面には赤い花が咲いていた=写真・下=。ヒガンバナ(彼岸花)は割と好きな花だ。ヒガンバナの花言葉は「悲しき思い出」「あきらめ」「独立」「情熱」。秋の彼岸に墓参りに行くと墓地のまわりに咲いていて、故人をつい思い出してしまう。「悲しき思い出」を誘う花だ。

   植物に詳しい友人から、かつてこんな話を聴いた。ヒガンバナは茎にアルカロイド(リコリン)という毒性がある。昔の人は死体を焼かずに埋葬した。そこで、犬が近づいて掘り返さないようにと毒性のあるヒガンバナを墓地に植えたのだという。犬よけの花でもある。

⇒10日(火)午後・金沢の天気    くもり時々あめ

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☆見て見ぬふりできない「ビジネスと人権」問題

2023年10月09日 | ⇒ニュース走査

   今月7日付のブログでも述べたが、ジャニー喜多川の性加害問題でメディアやスポンサー企業が問われたのは「ビジネスと人権」の視点が欠如していたことだった。企業活動における人権尊重は社会的に求められる当然の責務であるにもかかわず、ジャニー社長による性的搾取が続いていた。テレビ局はそれを知りながら、ジャニーズ事務所と契約し、タレントを番組に起用していた。スポンサー企業も広告代理店を通じてCMにタレントを使っていた。

   ビジネスと人権は、2011年に国連人権理事会で合意された「ビジネスと人権に関する指導原則」がベースとなっていて、企業活動における人権尊重の有り様は国際文書にもなっている。ビジネスと人権は単に企業活動を重視するだけでなく、人々を弾圧する国・政府との貿易や企業活動も問題視することになる。たとえば、中国だ。

   新疆ウイグル自治区の強制収容所に入れられたウイグル族の女性らが、組織的なレイプ被害を受けていると、BBCニュース(Web版日本語、2021年2月5日付)が報じている。また、強制収容所では、宗教的・文化的信仰を理由にウイグル族などの少数民族100万人以上が拘束されている可能性がある(同)。ウイグルでの状況について、アメリカ国務省の報道官は、中国がウイグル人に対して「ジェノサイド(大量虐殺)」を行っていると発言、バイデン大統領もこの発言を認めている(AFP通信Web版日本語・同)。

   そしてアメリカは、2021年12月にウイグル強制労働防止法(UFLPA)を成立させ、翌年6月より新疆ウイグル自治区が関与する製品は強制労働により生産されたものとみなし、輸入を原則禁止とした。ビジネスと人権を一体化させた措置だ。ところが日本は「政冷経熱」の言葉があるように、人権侵害は政治の問題と見なし、経済とは無関係と見て見ぬふりをしてきた。「ビジネスと人権」が欠落した日本の姿ではなかっただろうか。

   2020年10月、日本政府は「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定した。企業活動における人権尊重は、社会的に求められる当然の責務であるだけでなく、国際社会からの信頼を高め、グローバルな投資家の高評価を得ることにもつながる(経産省公式サイト「ビジネスと人権~責任あるバリューチェーンに向けて~」からの引用)。日本政府には「政冷経冷」の姿勢が問われている。

(※写真は、ヴァチカン美術館のラファエロ作『アテネの学堂』。上のプラトンとアリストテレスは論争を繰り広げているが、下のヘラクレイトス(左)とディオゲネス(右)は我関せずの素振り)

⇒9日(月・祝)午後・金沢の天気   あめ時々くもり

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