現在発売中の『國文學』3月号-特集流人の文学-(學燈社,定価1600円)に、「初めて世界一周した日本人-若宮丸漂流ものがたり」というエッセイを書きました。よく使われる意味での流人ではないと思うのですが、数奇な体験をした若宮丸漂流民のことを一般向けに紹介してもらいたいということでしたので、漂流、シベリア横断、世界一周、帰国、長崎での幽閉、帰郷という足跡をわりと丁寧に紹介しました。国文学の雑誌なので、若宮丸漂流民についての書かれた記録を、『環海異聞』だけでなく、口書、夜噺系もふくめてたくさん残っている、その意味で江戸を代表する海洋文学だったというようなことも書いています。
作品名 「長春五馬路」 著者 木山捷平
出版年 2006年 出版社 講談社(学芸文庫)
長谷川濬がらみで、満洲国崩壊前後の満洲を書いている小説ということで読んだ本。この前作「大陸の細道」では、戦争がいよいよ末期にさしかかっていた時、家族を置いて、わざわざ満洲くんだりまでやってきた中年男が、ソ連軍侵攻直前に徴集され、戦車に火炎瓶をもってぶつかる訓練を受けたところで終わったので、気になり、このあとの話となるこの作品を読むことになった。といっても時代は変わり、満洲国崩壊してから一年後、そのまま日本に帰れず、売春宿も兼ねているホテルに住み込み、五馬路で大道ボロ屋で生計を立てている作者らしき主人公の戦後が実に淡々と描かれている。おそらく笑わせようということではないと思うのだが、自然にユーモアがこみ上げてくるような味わいがある。状況としては決して笑えるような状況ではない、八路軍と国民軍の戦闘に巻き込まれてびくびくしながらなんとかかんとか生きている長春の日本人たちの姿を淡々と描く中に、自然に笑いがこみ上げてくることが何度かあった。もしかしたらこの木山という作家は、とんでもない人なのかもしれない。ブラックユーモアというわけでもない、過酷な状況のなかだからこそ、そうするしかなるまいという、どっしりとした諦念のなかにユーモア精神が宿っているのかもしれない。
久しぶりになかなか味のある小説を読んだ。
満足度★★★
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/0f/5ca5cd0e13eaeed7054794d6400217db.png)
出版年 2006年 出版社 講談社(学芸文庫)
長谷川濬がらみで、満洲国崩壊前後の満洲を書いている小説ということで読んだ本。この前作「大陸の細道」では、戦争がいよいよ末期にさしかかっていた時、家族を置いて、わざわざ満洲くんだりまでやってきた中年男が、ソ連軍侵攻直前に徴集され、戦車に火炎瓶をもってぶつかる訓練を受けたところで終わったので、気になり、このあとの話となるこの作品を読むことになった。といっても時代は変わり、満洲国崩壊してから一年後、そのまま日本に帰れず、売春宿も兼ねているホテルに住み込み、五馬路で大道ボロ屋で生計を立てている作者らしき主人公の戦後が実に淡々と描かれている。おそらく笑わせようということではないと思うのだが、自然にユーモアがこみ上げてくるような味わいがある。状況としては決して笑えるような状況ではない、八路軍と国民軍の戦闘に巻き込まれてびくびくしながらなんとかかんとか生きている長春の日本人たちの姿を淡々と描く中に、自然に笑いがこみ上げてくることが何度かあった。もしかしたらこの木山という作家は、とんでもない人なのかもしれない。ブラックユーモアというわけでもない、過酷な状況のなかだからこそ、そうするしかなるまいという、どっしりとした諦念のなかにユーモア精神が宿っているのかもしれない。
久しぶりになかなか味のある小説を読んだ。
満足度★★★
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