投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 9月27日(木)09時13分28秒
『聞き書 南原繁回顧録』(東大出版会、1989)には、前回投稿で引用した部分の少し後にパウル・ティリヒが出てきますね。(p118)
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福田 哲学の講義はお聞きになりませんでしたか。
南原 ときどき聞きに行きました。エドワルト・マイヤー教授のソクラテス、ギリシャ哲学ですね。それにカール・ホルの神学。これらはいずれも小さな教室で地味な講義でした。
それからパウル・ティリヒがいた。ティリヒは、私の関心─マルクスとカント─に近い宗教的な立場から社会主義を見るということをやっていた。それを私は一覧広告で知って聞きに行きました。彼は私より三つばかり年上ですね。十人か二十人くらいを相手に、全部書いてきた原稿を読むといった調子で顔もあげずに、一生懸命やっていました。今から考えると『ルーテル主義と社会主義』ではなかったかと思います。
このティリヒさんには、数年前(一九六〇年)日本に来たときあって話をしました。そのときはハーヴァード大学のユニヴァーシティ・プロフェッサーになっていました。フランクフルトの大学にいたとき、教場に暴れこんできたナチの学生を、あの人は正義派で、処罰する方に立ったのだね。それでナチににらまれて、アメリカにわたったということです。なつかしかったですよ。
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深井智朗氏の『パウル・ティリヒ─「多く赦された者」の神学』(岩波書店、2016)をきっかけにパウル・ティリヒについて少し調べた後に上記部分を読み直すと、何だか妙な気分です。
パウル・ティリヒは天才的な説教師としての社会的活動の裏で、常に複数の愛人を持ち、酒乱で、高級ワインとSM趣味に湯水のように金を注ぎ込んだ人格破綻者で、一種の詐欺師のような人物であり、お人好しの南原もうまく騙されたようですね。
南原と話し合ったという来日中の期間も、パウル・ティリヒは毎日銀座で豪遊していたはずです。
マイスタージンガーの「ちゃりん」
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/2517a81650541c274c62bb0df2b14ca1
ラインホールド・ニーバーが浅薄?
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/f2d99d04f2ad8bdd8ea18a528dfb31d8
『聞き書 南原繁回顧録』を初めて読んだ頃は南原繁を立派な人物だと思っていたので、同書のささいな記述にいちいち感心したりしていたのですが、改めて読み直してみると、上記以外にも、なんだかなー、と感じる部分が多いですね。
世間では無教会主義の人々を持ち上げる傾向があるので、私も何となく彼らを立派な人たちと思っていたのですが、矢内原忠雄や藤林益三などの人生を探ってみると幻滅を感ぜざるをえず、さらに内村鑑三と生育環境が近い深井英五について調べているうちに無教会主義の本家本元である内村鑑三にも多大な疑問を感じるようになってしまいました。
「会員の結婚についても矢内原の許可が必要」
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ac000927b58e09af2b961f5d1a194bed
「先生には複雑な心理学はなかった。政治的な指導もなかった。ただ理想主義一筋だった」(by 竹山道雄)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ed97972995a39f43ede99e8143ac49d1
「近代日本における宗教と民主主義」を読んでみた。(その1)~(その4)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/694f6e7502e0b374f82911403026d6f6
藤林益三の弁明(その1)(その2)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/20acfbd6dc3353989316d646ce2fb6ec
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/7229fb2278bfdc4a2f067053b7a69896
深井英五『回顧七十年』
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/605b63aac3f2e40c619f3245c4fd32f3
そうなると、坊主憎けりゃ袈裟まで、ではありませんが、かつては輝いていた『聞き書 南原繁回顧録』のいくつかのエピソードも、何だかずいぶん色褪せてしまいました。
また、ところどころに挟まれる南原の短歌の莫迦さ加減は本当に耐え難いですね。
歌人としての南原繁
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/3cabcef3a47943005fc6d46793f9291d
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