投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2012年 3月19日(月)10時47分57秒
>筆綾丸さん
私も新聞記事を通してしか事実関係を知らないのですが、物権法の範囲では、東京電力の弁護団の主張は特におかしくはないと思っています。
所有権は「物」を排他的・独占的に使用・収益・処分できる権利ですが、あまりに小さすぎて、実際上、排他的・独占的支配の対象とはなりえない物は所有権の対象外、と考えるのは筋が通っています。
所有権の対象であれば、円満な排他的・独占的な支配ができない場合、所有権者には返還請求権・妨害排除請求権等の物権的請求権が認められ、国家(裁判所)はその実現に協力しなければなりません。
所有者Aの物が他人Bの土地に存在する場合、AはBにその物を返還しろと請求でき(物権的返還請求権)、他方、その物が存在することによりBの円満な土地支配が妨げられている場合、BはAに対して、その物をどかせ、と請求できます(物権的妨害排除請求権)。
ゴルフ場の仮処分の事件では、ゴルフ場の円満な土地支配が害されたとして、妨害排除請求権が問題となりましたが、仮に原発から出た放射性物質が東京電力の所有権の対象とすると、逆に所有者である東京電力は放射性物質が付着した土地・建物などの不動産の所有者、自動車その他の様々な動産の所有者、更に人体に取り込まれた場合にはその人に対してまで、放射性物質の返還請求権を有することになってしまいます。
即ち、東京電力が放射性物質の回収を求めたら、放射性物質の付着する不動産・動産の所有者は、回収を受忍しなければなりません。
人体の場合、放射性物質の分離・回収要求を認めたら殺人行為の肯定になりますから、東京電力の弁護団の主張は、東京電力はシャイロックではない、という穏当で常識的な主張ですね。
放射性物質以外でも、例えばある人Cが咳をしてインフルエンザのウイルスを他人Dに移した場合、当該ウイルスの所有権がCにあるとして、CがDにウイルスの返還請求権を持つ、という結論は異常です。
あまりに微小な物については、そもそも所有権の対象外であり、無主物だと考えるのは、決しておかしなことではありません。
民法242条・243条の「附合」も物権法上の概念であって、ある人の所有物と他の人の所有物が結合し、両者を切り離すのに多額の費用がかかる場合には、社会経済的観点から無駄なことはせず、一方の所有にして他方には「償金」(民法248条)を与えることにしましょう、というだけの話で、所有権のぶつかり合いを調整しているにすぎず、もともと思想や哲学の問題ではないんですね。
そして、「無主物」や「附合」はあくまで物権法の問題であって、「最終的な責任」を決定している訳ではありません。
ある人が変な物質を排出した結果、離れた場所にいた人が損害を蒙った、というのは多数の判例が蓄積されている公害の場合と同じ状況であり、公害は「不法行為」(民法709条)の問題として扱われてきました。
工場の煙突から吐き出された個々の物質の所有権が誰に帰属するのか、などと争った人はいません。
不法行為の枠組みでの解決が一番素直であり、その場合、金銭賠償が原則ですが、原状回復などの特定的救済もありうるので、放射性物質を除去しろ、という請求が認められる可能性もあると思いますね。
ゴルフ場のケースは金銭賠償も否定したそうで、新聞記事から得られる限りの情報だと、その理由が若干弱いように感じるのですが、仮処分事案であることも考慮する必要がありそうです。
物権的請求権
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A9%E6%A8%A9%E7%9A%84%E8%AB%8B%E6%B1%82%E6%A8%A9
>筆綾丸さん
私も新聞記事を通してしか事実関係を知らないのですが、物権法の範囲では、東京電力の弁護団の主張は特におかしくはないと思っています。
所有権は「物」を排他的・独占的に使用・収益・処分できる権利ですが、あまりに小さすぎて、実際上、排他的・独占的支配の対象とはなりえない物は所有権の対象外、と考えるのは筋が通っています。
所有権の対象であれば、円満な排他的・独占的な支配ができない場合、所有権者には返還請求権・妨害排除請求権等の物権的請求権が認められ、国家(裁判所)はその実現に協力しなければなりません。
所有者Aの物が他人Bの土地に存在する場合、AはBにその物を返還しろと請求でき(物権的返還請求権)、他方、その物が存在することによりBの円満な土地支配が妨げられている場合、BはAに対して、その物をどかせ、と請求できます(物権的妨害排除請求権)。
ゴルフ場の仮処分の事件では、ゴルフ場の円満な土地支配が害されたとして、妨害排除請求権が問題となりましたが、仮に原発から出た放射性物質が東京電力の所有権の対象とすると、逆に所有者である東京電力は放射性物質が付着した土地・建物などの不動産の所有者、自動車その他の様々な動産の所有者、更に人体に取り込まれた場合にはその人に対してまで、放射性物質の返還請求権を有することになってしまいます。
即ち、東京電力が放射性物質の回収を求めたら、放射性物質の付着する不動産・動産の所有者は、回収を受忍しなければなりません。
人体の場合、放射性物質の分離・回収要求を認めたら殺人行為の肯定になりますから、東京電力の弁護団の主張は、東京電力はシャイロックではない、という穏当で常識的な主張ですね。
放射性物質以外でも、例えばある人Cが咳をしてインフルエンザのウイルスを他人Dに移した場合、当該ウイルスの所有権がCにあるとして、CがDにウイルスの返還請求権を持つ、という結論は異常です。
あまりに微小な物については、そもそも所有権の対象外であり、無主物だと考えるのは、決しておかしなことではありません。
民法242条・243条の「附合」も物権法上の概念であって、ある人の所有物と他の人の所有物が結合し、両者を切り離すのに多額の費用がかかる場合には、社会経済的観点から無駄なことはせず、一方の所有にして他方には「償金」(民法248条)を与えることにしましょう、というだけの話で、所有権のぶつかり合いを調整しているにすぎず、もともと思想や哲学の問題ではないんですね。
そして、「無主物」や「附合」はあくまで物権法の問題であって、「最終的な責任」を決定している訳ではありません。
ある人が変な物質を排出した結果、離れた場所にいた人が損害を蒙った、というのは多数の判例が蓄積されている公害の場合と同じ状況であり、公害は「不法行為」(民法709条)の問題として扱われてきました。
工場の煙突から吐き出された個々の物質の所有権が誰に帰属するのか、などと争った人はいません。
不法行為の枠組みでの解決が一番素直であり、その場合、金銭賠償が原則ですが、原状回復などの特定的救済もありうるので、放射性物質を除去しろ、という請求が認められる可能性もあると思いますね。
ゴルフ場のケースは金銭賠償も否定したそうで、新聞記事から得られる限りの情報だと、その理由が若干弱いように感じるのですが、仮処分事案であることも考慮する必要がありそうです。
物権的請求権
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A9%E6%A8%A9%E7%9A%84%E8%AB%8B%E6%B1%82%E6%A8%A9
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