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0098 平雅行氏「序章 鎌倉仏教研究の課題と総括的検討」を読む。(その1)

2024-06-05 | 鈴木小太郎チャンネル「学問空間」
第98回配信です。


一、当面の方針

 (案1)南北朝初期政治史の検討
 (案2)権門体制論の検討
 (案3)無外如大の検討

0034 YouTubeチャンネルの振り返りと今後の運営方針〔2024-02-05〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/f83cd503a4f565c0fd9d5827b0a7282b
0086 平雅行氏『鎌倉時代の幕府と仏教』について〔2024-05-10〕

平雅行氏『鎌倉時代の幕府と仏教』(塙書房、2024)
http://rr2.hanawashobo.co.jp/products/978-4-8273-1350-5


二、「序章 鎌倉仏教研究の課題と総括的検討」について

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はじめに
第一節 鎌倉仏教研究の課題と方法
第二節 鎌倉仏教界をめぐる総括的検討
 1 東国仏教と鎌倉山門派
 2 東国仏教の自立について
第三節 本書の構成
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p3以下
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  はじめに

 本書は、鎌倉仏教の実態を解明することによって、鎌倉幕府の宗教政策、およびその歴史的変遷を明らかにすることを目的とする。黒田俊雄氏は顕密体制論を提起したが、そこでは鎌倉幕府や東国仏教界の包摂が十全でなかった。本書では、新たな実証水準で鎌倉仏教を検討することによって、顕密体制論を東国をも包摂した学説へと再定立させたい。
【中略】

  第一節 鎌倉仏教研究の課題と方法

 本書の研究テーマには三つの課題がある。第一は鎌倉仏教界の歴史的実態の解明、第二は鎌倉幕府の宗教政策とその歴史的変遷の解明、第三は鎌倉仏教の展開史を全体的視角から捉えなおすことである。そしてこれらの課題を達成するには、実証水準の飛躍的深化が必要である。それゆえ、ここではそれぞれの課題と研究方法の説明を一体的に行うこととする。
 まず、第一の課題である鎌倉仏教界の歴史的実態の究明について。この課題の必要性を痛感したのは、佐々木馨氏による黒田批判がきっかけである。黒田俊雄氏は一九七五年に顕密体制論を提起した。そして、①古代仏教は中世への移行期に質的な変化をとげた、②顕密仏教が国家と相互依存の関係を取り結んだ体制を顕密体制と呼ぶ、③顕密体制は中世末期に至るまで宗教秩序の根幹をなした、④「鎌倉新仏教」概念は近世的宗派秩序の源流論に立脚したものであり、中世宗教史の分析概念としては不適切である、と論じた。黒田氏の問題提起は、中世国家が公家・武家・寺家の連携によって運営されていたとする権門体制論と連動していた。中世史像の転換を起点に仏教史像の再構築を提起したため、その衝撃は大きく、これ以降、古代中世の仏教史研究はシェーマの根本的見直しが相次ぎ、疾風怒濤の時代に入った。
 こうした研究潮流に批判の声をあげたのが佐々木馨氏である。黒田氏は鎌倉幕府を、基本的に顕密体制に立脚しそれを擁護した権門と位置づけた。権門体制論の立場からすれば当然の発言であるが、佐々木氏はそれをきびしく批判した。そして、中世の体制仏教を、公家的体制仏教と武家的体制仏教の二つに分けて把握するよう提言している。 
 氏のいう公家的体制仏教とは、天台宗山門派を中心とする顕密主義を指す。一方、武家的体制仏教は臨済禅と東密・寺門派・律宗からなり、氏はこれを禅密主義と呼ぶよう提唱した。こうした提言の背景には、(1)山門派と公家権門との宗教的一体性、(2)寺門派と幕府との宗教的和合、(3)幕府と山門派との決定的反目、(4)山門派と寺門派との宿命的対立、という基本認識がある。【中略】
 要するに佐々木馨氏は、顕密体制は西国の宗教秩序であり、東国では幕府を中心に別の宗教秩序が構築されていた、と主張したのである。この構想は東国国家独立論や二つの王権論と通じるところがあり、その点からも注目すべき学説である。【後略】
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佐々木馨(1946生、北海道教育大学名誉教授)
https://researchmap.jp/read0167214
https://www.yoshikawa-k.co.jp/author/a13769.html
現代の宗教観・生死観を分析 佐々木馨さんが新著【函館】(2022.10.24函館新聞)
https://hokkaido-nl.jp/article/26960

佐々木馨『執権時頼と廻国伝説』(吉川弘文館、1997)
http://web.archive.org/web/20061006194255/http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/sasaki-kaoru-tokiyori-01.htm
石井進「新たな北条時頼廻国説の提起に思う」(『日本歴史』600号、1998)
http://web.archive.org/web/20150429140816/http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/ishii-susumu-aratana-kaikokusetu.htm
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