投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 7月10日(日)10時11分50秒
あまりドイツに寄り道していると「国家神道」もフランスのライシテも忘却の彼方に消えてしまいそうなので、そろそろ終わりにしますが、『ハイデルベルク─ある大学都市の精神史』にはイェリネック夫人もチラッと登場していて、その部分だけ少し抜き書きしておきます。
新カント派・西南ドイツ学派の創始者であるウィルヘルム・ウィンデルバント(1848-1915)とマックス・ウェーバー(1864-1920)の対立に関係する一挿話として、『マックス・ウェーバーの思い出』の著者である社会学者、パウル・ホーニヒスハイムが紹介するものです。(p156以下)
なお、当該挿話の部分は段落全体が一字分下げてあります。
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【前略】ウェーバーはどうにもならぬという調子でこう嘆いたという。「ウィンデルバントと政治や女性問題の話をすることはまったく不可能だ」と。ホーニヒスベルクは、さらにウェーバーがいささか嘲笑的に語ったという一つの挿話を伝えている。
イェリネック夫人はウェイトレスを道徳的危険から守るために、とりわけ少女が夜アルコールを販売する店で給仕することを禁止する法律をつくろうとして努力していた。彼女はその請願のために署名を集め、その請願書は関係官庁に送付する手はずとなっていた。これにはウィンデルバント夫人も署名していたが、その署名のとき彼女は御主人のことを考慮に入れていなかったのだ。この御主人は、ウェイトレスのような存在にかかわりをもつ一文書に正教授(オルディナリウス)夫人の名が記されていることはその身分にふさわしからぬことと考え、彼女の署名を撤回するよう要求したものだ。そこでこの"ママヒェン"─とわれわれ若者たち、いやウェーバーもそうウィンデルバント夫人のことを呼んでいた─は、後悔してイェリネック夫人のもとに行った。イェリネック夫人は笑いながら彼女にその文書を渡すと、彼女は自分の名を抹消し、安心してふたたび赦しを与えてくれる夫のところへ帰って行った。
いかにもハイデルベルク大学正教授・枢密顧問官ウィルヘルム・ウィンデルバントの人間的側面をよくうかがわせる挿話である。ウェーバーは、こういうドイツ大学人の官僚的・権威主義的な虚偽・欺瞞を嘲笑し、手厳しく批判したのである。
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カミーラ・イェリネック(1860-1940)が行った社会的活動については、たぶんマリアンネ・ウェーバー(1870-1954)の『マックス・ウェーバー』あたりを読めばもう少し詳しく分かるのでしょうが、今はそこまで手を伸ばす余裕がありません。
Camilla Jellinek
>筆綾丸さん
>生松というのは、返す返すも、妙な名前
読み方が「おいまつ」なら多少は優雅な趣があるでしょうが、「いきまつ」ですから、妙に生々しいですね。
小塩節氏の「解説」に「生そのもののうねりをあげて生きて」とありますが、これはたぶん「生松」のイメージを重ねているんでしょうね。
※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
七夕のバイコヌール 2016/07/09(土) 11:25:38
小太郎さん
生松敬三の著書は一冊だけ読んだことがありますが、ルカーチ『実存主義かマルクス主義か』という訳書でした。生松には、もう読むことはないと思いますが、森鴎外論もあるのですね。余計なことながら、生松というのは、返す返すも、妙な名前です。
この装幀、懐かしいなあ。原題「EXISTENTIALISME OU MARXISME?」からすると、原文は仏語のようです。独語なら EXISTENTIALISMUS ODER MARXISMUS? となるはずですものね。
悦ばしきことなんでしょうが、たかが地上上空 400?くらいの空間を「宇宙」と呼ぶのは、cosmos や universe に対する甚だしい僭称で、black hole や dark matter が聞いたら嗤うでしょうが、space の適当な訳語ないので仕方ないですね。
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大西さんは日本の実験棟「きぼう」で、2つあるマウスの飼育容器の一方を回転させて地上と同じ重力をかけて育てる。宇宙と地上の重力の違いで、マウスに起こる変化を調べる。(7月8日付日経朝刊3面)
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「宇宙」と言っても、まだ、この程度の実験しかしていないのか、と思います。メダカがマウスになっただけのことです。こんな実験に巨費を投ずる価値はあるのか、とは言いませんが。
「The original Baikonur (Kazakh for "wealthy brown", i.e. "fertile land with many herbs")」における Baikonur は、Baiko(茶色)+ nur(裕福な)なのか、Baiko(裕福な)+ nur(茶色)なのか。
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