学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

鵜飼信成とジョー小出

2015-07-10 | 石川健治「7月クーデター説」の論理
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 7月10日(金)10時53分28秒

加藤哲郎氏のサイトについて少し揶揄めいたことを書きましたが、にわか勉強で『ゾルゲ事件─覆された神話』(平凡社新書、2014)に紹介されている文献のごくごく一部を読んでから、改めて同書を読むと、加藤氏の問題分析・論点整理の手際良さに感心してしまいます。
ゾルゲ事件研究も今はゾルゲの中国での活動に焦点が移っていて、相当程度の進展が見られるんですね。
もちろん本当の実態解明は、中国共産党の機密文書が公開されるようになる遠い(?)将来を待たねばならないとしても。

さて、加藤氏が現在追跡しているのは鬼頭銀一という人物ですが、同書では渡部富哉氏の「尾崎秀実を軸としたゾルゲ事件と中共諜報団事件」(白井久也編 『国際スパイ・ゾルゲの世界戦争と革命』所収)を引用した後、次のような記述があります。(p221)

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 ここで渡部は言及していないが、尾崎秀樹が親族から得た鬼頭銀一についての情報で重要なのは、「上海へ移住し、満鉄の系列会社である国際運輸上海支店に勤務中、コミュニストをかくまったかどで懲役二年、執行猶予三年の判決を受け、市ヶ谷刑務所で服役」「一九三八年五月、パラオ諸島のペリリュー島で食中毒のため急死」というゾルゲ事件に直接関わる問題にとどまらない。「昭和初年にアメリカに渡り、スクール・ボーイなどをしながらコロラド州のデンバー・カレッジに学び、卒業という経歴が注目される。
 奇妙なことに、昭和初年渡米、デンバー大学卒業(一九〇三年生、実際は二五年三月渡米、二七年末入党)というのは、野坂参三の一九三四-三五年、三六-三八年米国非合法滞在時の地下活動の助手で、のちにカール米田、ジェームズ小田らから「裏切り者」「スパイ」として告発されたジョー小出=本名鵜飼宣道(憲法学者で国際キリスト教大学学長だった鵜飼信成の実兄)の、アメリカ留学時代の履歴(一九〇三年生、二五年九月渡米、デンバー大学卒業、二八年頃入党)と、年齢・経歴・入党時期共に、ほぼオーバーラップする。
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実は個人的に同書の中で一番びっくりしたのは、ジョー小出が鵜飼信成の実兄という指摘でした。
鵜飼信成(1906-87)は憲法学界でもすっかり過去の人ですが、私はたまたま石川健治氏の「「京城」の清宮四郎―『外地法序説』への道」(『帝国日本と植民地大学』、ゆまに書房、2014)等、清宮四郎関係のいくつかの論文、エッセイを読んでいて、京城大学で清宮の同僚だった鵜飼信成に関する断片的な、しかし非常に興味深い記述に注目していたので、碩学鵜飼信成の兄がそんなに危険な活動に携わっていたのかとまず驚きました。
そして、大森実のジョー小出に対するインタビュー(『戦後秘史3─祖国革命工作』、講談社、1975)を読んでみたら、ジョー小出のお人柄が余りにファンキーだったので、またまたびっくりでした。
鵜飼信成が数奇な運命を辿った3歳上の実兄に対し、どのような態度を取っていたのか、ちょっと気になります。

>筆綾丸さん
>西村尚芳検事
現役の間は無理でしょうが、引退後は西村検事から見た『国家の罠』の真実、みたいな本を書いてほしいですね。
佐藤優氏も初めての拘置所暮らしの際は極限まで頭脳が冴えていたのでしょうが、今は娑婆でのびのび過ごされているためか、すっかり筆が荒れてしまいましたね。
旧著を過剰に褒め称えてしまった私としても、いささかきまりの悪い思いがします。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
TURNOUT 63 % ?
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/7876
コメント
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