大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第173回

2015年02月03日 14時51分11秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第170回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~道~  第173回




「お昼はこうしてエアコンをかけてこの中で過ごしているんですか?」

「はい。 朝一番の涼しい時には工事の方のどなたかが外へつれて出て下さっているみたいなんですけど昼間は暑いですからな。 夜は何かあるといけませんので工事の方がエアコンを切って窓を開け放して帰るんです。 何も取られて困るような物はありませんからな」 プレハブハウスの中はテーブルと椅子そして冷蔵庫と湯飲みがあるくらいだ。

「皆さんここで休憩されてるんですか?」

「はい、暑いですからな。 時々ここで身体を休めてもらおうと思いましてな。 どうですか琴音さん抱っこしてみますか?」

「本は沢山読んだんですけど犬には触ったことがなくて・・・あ、猫も小動物もです」

「そうですか。 恐くありませんよ。 最初は頭ではなくて喉の辺りを触ってあげてください」 恐る恐る手を伸ばし喉を触った。 

「わぁ・・・」

「どうですか?」 両手で顔の横を撫で始めた。

「可愛い・・」

「この仔は大人しいみたいですから大丈夫ですよ。 抱っこしてみませんか?」

「はい。 してみます」 正道が琴音のほうに仔犬を差し出し

「お尻を持って・・・そう、そう」

「なんて小さいのかしら」

「小さくても大きくても 同じ大切な命なんですよ」

「はい」 愛おし気にずっと仔犬を見ている。

「この仔・・・これからどうなるんですか?」

「どなたか工事の方が引き取りたいと仰ればお預けするつもりでいます。 何処も怪我なども無いようですし」

「そうですか」 そう言って仔犬の方を見て

「誰かいい人にもらわれるんですよ」 優しく語りかけた。 

琴音の姿を優しい目で見ていた正道が大きな鞄の中をゴソゴソと探し紙袋を出してきた。

「これは動物の筋肉や骨格の本です。 痛みを取るにはそれなりに筋肉や骨のつき方も覚えておきませんとな」 そう言ってテーブルの上に置き

「子供の頃に色んな本を読まれていたようですが もう一度復習の意味もこめて読んでおいていただけますか?」

「はい」 仔犬をケージに戻し紙袋の中を見てみると

「まぁ、こんなに沢山」

「少しずつで宜しいですよ」

「もう記憶力も悪くなってきたから覚えられるかしら・・・?」

「大丈夫ですよ」 正道が微笑んだ。

「それと・・・立ったままもなんですから座りましょうか」 置かれていたパイプ椅子に座るよう促し、向かい合って正道も座った。

「琴音さん、私の掌に琴音さんの掌を近づけてください」 右手の掌を上にむけて琴音の方に差し出した。 

言われるままに出された正道の手に琴音の手を近づけた。

「あ・・・暖かくて・・・何かピリピリします」

「分かりましたか? これが気です」

「き?」

「そうです。 気功って聞いたことはありませんか? その気です」

「このピリピリが気ですか・・・あ・・・」

「どうしました?」 正道の掌から手を外し

「いつからだったかしら・・・」

「はい」 正道も手を自分の足の上に置いた。

「時々なんですけど 朝方、目が覚めたときにボーっとしていると 掌や足の裏が今、正道さんの掌の時ようにピリピリとすることがあります」 あの日からずっと続いているのはこれだけだ。

「ほほぅー」 頭を軽く上下に振りそして続けて言った。 

「それが気です。 琴音さんがそういうご経験をされているのは驚くことではないんですが、今のお話を聞いてちょっと気になっていることがあるのですが・・・」

「はい、何でしょうか?」

「答え辛かったら答えなくて宜しいですよ」 そう前置きをして

「琴音さんの力は分かっているつもりなのですが どうも琴音さんはあまり色んなことをご存知ないようで・・・」

「はい、全く何も知りません」

「知らないことが悪いといっているわけではないんですよ。 ただ、以前に聞きましたが疑問があると色んな本を読んでいらっしゃると・・・それではこの掌のピリピリは何なのだろうかと 本は読まれなかったんですか?」

「あら、本当だわ。 どうしてでしょう。 何でも知りたいことは本を読んで解決してきたつもりなのに ヘンな文字や分からない風景が見えてもそのままにしていました。 どうしてだったのかしら」

「ヘンな文字や風景ですか?」

「そうなんです。 えっと・・・これもいつだったかしら・・・」 暫く考え込むと

「あ、そうだわ。 何もかもだわ・・・」

「何もかも?」

「はい。 他にも綺麗な模様が見えたり 聞こえるはずのない音が聞こえたり・・・全部、今の会社に入ってからだわ。 どうしてなのかしら・・・」

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