大福 りす の 隠れ家

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僕と僕の母様 第27回

2011年02月26日 01時31分53秒 | 小説
僕と僕の母様 第27回



「ここでピアノを触って待ってる」 とだけ返事をして 傍にあった電子ピアノを触りだした。

順平のほうも 諦めたのか初めから自分一人で行くつもりだったのか「じゃあ、時間かかってもいい?」 とだけ聞いてきた。 

「うん、構わないよ」 並んでいる電子ピアノを眺めるふりをしながら それだけ言って早く行け、と言わんばかりに 手でシッシッという動作をして追いやった。

まるで順平から見ると 電子ピアノを触りたいから早くあっちへ行け、とでもいうように映ったに違いない。

とんでもない、その電子ピアノには値札が付いていたのだ。 完全な電子ピアノ屋さんなんだ。

店員さんらしき人が こっちを気にしだした。 もし「いらっしゃいませ」 なんて寄ってこられたら 順平と違って僕はどうしていいのか分からない。

順平の真似をして 誰とでも話せるようになりたいと思う気持ちは この時にも勿論あったが まだ馴れの薄い僕にこのシチュエーションはキツイ。

早く二階に上がれと祈りつつ 順平の後姿をバレないように目で追っていると 完全に階段から見えなくなった。

それを確認すると すぐさま僕はそのビルの外に出た。 

ビルの前で立っていてもガラス張りなだけに 店員さんから丸見えだ。 ビルから見えないところまで移動して そこから時々顔を出して 順平が戻ってきたかどうか見ながら 何をすることなく 空を見ながらボーと立っていた。

三、四十分ほど経ったくらいに 順平がビルから出てきた。 何気ないふりをして 僕はビルの方に歩き出した。 

順平はキョロキョロとしてから 近寄ってくる僕を見つけて「何してるの? ピアノ触ってなかったの?」 と聞きながら歩いてきた。 

真実を語っても 順平には伝わらないだろう。 それに僕もこんな根性のないところを 必要以上に根性のある順平には聞かせたくないという思いがあったので 何食わぬ顔で「うん、あまりいいなと思うのがなかった」 とだけ言って話をそらした。

「それよりどうだった? どんな感じだった?」

「最高! いいわ、手続きとってきた」 エッ、早い! いつもの如く 家の人に何の相談もしなくて決めたのか?

「手続きって、家の人に聞かなくていいの? 少なくとも月謝がいくらとかってあるじゃない、いくら何でも勝手にしちゃあマズイんじゃない?」

「いいの、いいの、そういう事あんまり気にする方じゃないから」 

気にするとか、しないとかそういう問題じゃないんじゃないかと思いつつも よその家の事だし僕が口を挟む問題でもないから そこのところはそれ以上突っ込む事はしなくて 二階がどんな風になっているのかとか、練習風景とかを聞いていた。

いつもの如く 順平のキラキラ目をしながら 一生懸命にその様子を語っていた。

話していくうちにふと、アコースティックギターは持っているけど エレキギターは持っているのかと疑問に思い それを聞いてみた。

「まだ持ってない 今度の土曜にでも買いに行く。 ついて来てくれる?」 マズイ事を聞いてしまった。

順平の両親はこの上なく怖いのだ。

おじさんには直接会った事がないけど 順平の話からすると 少しの事でもすぐに怒って手が出るそうだ。

前に一度順平が「昨日、親父に殴られた」 と言って 脇腹を見せた事があったが 青いアザがくっきりとついていた事があった。

本当にお父さんに殴られたのかどうかは分からないが そんな事で嘘をつくようなヤツではないと 僕は思っている。

お母さんにしては 学校帰りに僕が順平の家に行ったときなんか「今日は」 と声をかけると 優しく返事をしてくれるのだが たまに順平が「あ、布団畳んでなかった、畳んでくるからちょっと待ってて」 という時がある。

僕が玄関の中に立って待っていると 普通の会話なのに 僕がそこにいるのを知らないから お母さんの本性が出るのかどうか分からないが、順平に話す口調はいつも怒鳴っている感じで 順平自身も「うるさいクソババア」 等と言い返している。

お母さんはある程度キレてくると 武器を出してくるそうだ。 一度包丁なんかもあったそうで 僕はいつとんでもない親子喧嘩が始まるのかと ドキドキして待っている。

そんな両親に了解なしに教室も決めて エレキも買いに行って その二回ともに僕が一緒に行っているなんて どんな事が起きるか想像もしたくない。

サワラヌカミニタタリナシ だ。




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