鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1912~向田邦子

2020-04-06 12:04:33 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、向田邦子です。

久しぶりに向田邦子の名文を読みたくなり、手近にあった対談集「お茶をどうぞ」を読み始めました。
黒柳徹子との対談が2本、続いて森繁久彌・・・。
いつものように半身浴をしながら30分ほどの読書。
ところが、いつもと違う尋常でない汗・・・?!
気づきました。
対談集の面白さに、ついいつもより20分も長く入浴していたのです。
なんという面白さでしょう。

しかし読みながら別のことを考えていました。
彼女の名人芸といえる見事な文章を味わいたいのなら短編集かエッセイ集を選ぶべきでした。
対談集では彼女の頭の回転の速さとサービス精神しか味わえないのです。
対談集を中断して、本丸であるエッセイ集に替えました。

久々に「父の詫び状」の登場です。
いつも怒鳴ってばかりで家族への愛情を上手く表現できない不器用な父を、見事に描き上げた名作中の名作。

冒頭の表題作「父の詫び状」もいいですが「ごはん」がなかなか良かったです。
あらすじはざっとこんな感じ。
=====
東京大空襲の一夜が明け、家族も家も奇跡的に無事だった。
父の号令で、いざという時のために取っておいた米を炊き、さつまいもを天ぷらにして一気に食べた。
子どもたちを栄養失調のまま死なせたくないという親心だったのだろう。
その後向田が肺病になったときに、華族じゃあるまいしと親戚に揶揄されながらも療養させ、彼女だけに鰻丼を食べさせた。
そして父は娘が快癒するまで200日を超え禁煙した。
=====

お父さんの愛情の深さと、それを娘がしっかり感じ取っていたことがよーく伝わる名作です。
鼻の奥がツーンとしました。
食いしん坊の向田が、生涯最も美味しかった食事は「ごはん」で書いた二回だといっています。
家族の愛情に勝る調味料はない、ということでしょうね。

「ねずみ花火」では、あれこれ記憶をたどります。
そして最後に「記憶をたどる」ってことは、思わぬところに思いが飛び火してねずみ花火のようだ、とまとめており、エッセイ名人のキラリとした技を堪能しました。

「海苔巻の端っこ」や「学生アイス」も良かったけれど、本書で一番お気に入りのエッセイ?は「あとがき」です。
この「あとがき」を読むだけでも本書を手に取った価値があるというもの。

乳がんを患ったこと、右手が動かなくなったことなどで、心がふさいでいるときに「銀座百点」へのエッセイの連載を引き受けたところから始まります。
やがて右手が回復するとともに、関心事が「死」から「生」に切り替わっていきます。
本書「父の詫び状」はこうして生まれました。
最後に体が弱っていた母にがんの報告をしていなかったが、近頃元気を取り戻したこともあり、この「あとがき」を「母への詫び状」としたい、と鮮やかにまとめ上げています。

以前、AMAZONのカスタマーレビューで目にした「国語の先生から言われた一言」がよみがえります。
「文章を勉強するなら向田邦子だけを読めばよい」
この「あとがき」は「父の詫び状」「ごはん」を超える至高のエッセイといえそうです。

蛇足ながら、著者のエッセイで一番好きなのは本書に掲載されていない「字のないはがき」です。
向田ファンなら分かっていただけると思います。

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