今回のお気に入りは竹鶴政孝パート248、マスターブレンダーの自叙伝④です。
北海道新聞の夕刊に連載されたニッカウヰスキー第3代マスターブレンダー佐藤茂生氏の自叙伝から興味深いエピソードをご紹介します。
今回は、第8話から第11話(最終回)までです。
「私のなかの歴史~ウイスキーとともに」
○第8話 世界最高点 余市の新樽 熟成10年で
2001年「シングルカスク余市10年」がイギリスのウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」が主催した「ベスト・オブ・ザ・ベスト」という鑑定イベントで世界最高点を取りました。
この企画は世界のウイスキー市場が縮小していることに危機感を感じて開催されたものです。
ウイスキーの世界で歴史上初めて行われたイベントでした。
イギリス、アメリカ、東京で合わせて62人が審査員になり評価しました。
まさか日本のウイスキーがトップになるとは誰も予想していなかったでしょう。
1986年くらいからコストの高い新樽を導入し、エキス分が多く出る危険性から毎年サンプリングして様子を見ました。
受賞したシングルカスクも新樽熟成です。
5年目には従来のものにない、複雑でこくがあり、華やかさのあるものになりました。
甘い香りも出てきました。
あと5年おけば立派なものになると考え、そのまま熟成を続ける決意をした樽でした。
新樽は暖かい気候ではエキス分が出過ぎ、いいウイスキーはできません。
余市という厳しい自然と風土が、いいウイスキーを造り上げたのです。
○第9話 日本の躍進 品質を評価 世界に愛飲家
2003年以降、ロンドンやパリ、リスボンなどのウイスキーライブで試飲してもらい説明しました。
品質の良さを高く評価されました。
ヨーロッパでもニッカ製品が伸びており、特にフランスが好調で「フロム・ザ・バレル」は日本より売れているほどです。
現在も声がかかればウイスキーセミナーに出たりしています。
セミナーの参加者に若い女性が増えてきています。
男性以上に香りに魅力を感じています。
樽での熟成による独特の香り、本当にナチュラルな香りに魅せられているようでした。
新しい時代のニーズに触れた機会でした。
○第10話 スコッチの里 英の蒸留所に余市の風景
「シングルカスク余市10年」が世界最高点を獲得したことで、本格的なモルトウイスキー愛好家の集まり「ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(SMWS)」がニッカに目を向けました。
SMWSは1983年につくられた団体でイギリスを中心に世界中に3万人の会員がいます。
この団体のコレクション・ボトルに選ばれることは世界でも最高級のモルトウイスキーであることの証明になります。
2002年にSMWSの116番目のコレクション・ボトルにニッカのモルトウイスキーが認定された記念のパーティーがエジンバラで開催されました。
それまでコレクションに加えられたのはスコッチがほとんどで、他にはアイリッシュがあるだけでした。
竹鶴威さんに認定書が渡され、私はあいさつで竹鶴政孝さんの思想を引き継いでどういうウイスキー造りをしているかをお話ししました。
その後、威さん夫妻とスコットランドの蒸溜所巡りをしました。
1919年(大正8年)に政孝さんが最初に研修したロングモーン・グレンリベット蒸溜所を訪れました。
政孝さんがボイラー室の外壁の前で製造主任と一緒に写真を撮った写真が今も残っています。
威さんがその場所を見つけ、現在の工場長と一緒に写真を撮りました。
時代を超えた遭遇に皆さん感動しました。
キャンベルタウンでは、政孝さんが研修したヘイゼルバーン蒸溜所はすでに閉鎖されていて事務所だけが残っていました。
キャンベルタウンの海を眺めると、砂浜や岸壁の広がりなど余市の風景に通ずる思いがしました。
妻のリタさんと、ここで学んだ政孝さんも同じ思いがあったのではと想像しました。
余市は余市川からの川風、日本海からの海風、山から吹き下ろす山風、3つの違う風を受けながら樽が熟成していく。
それが余市独特の複雑なウイスキーを造ることになるのです。
○第11話 マッサンの夢 「心豊かにする」酒造りを
1995年にスーパーニッカ発売25周年を記念して「マイウイスキーづくり」が余市蒸溜所で始まりました。
1泊2日でウイスキー造りを体験してもらう企画です。
蒸留し、樽詰めした原酒を10年後に瓶詰めして1本プレゼントします。
自費で余市まで来てくれるか疑問でしたが、ふたを開けると予想以上に好評で話題になりました。
抽選待ちで、毎回申し込んでも当たらない人もいました。
マイウイスキー贈呈式では皆さん、涙を流さんばかりに感激し、贈呈ボトルを受け取ります。
厳しい時代でもブレンダーとして熟成を経て完成するウイスキーを丁寧に我慢強く知恵を出し、造り上げてきました。これが竹鶴政孝さん以来続くニッカのブレンダーの伝統です。
政孝さんが大事にしたニッカウヰスキーの原点、「トリックはない、小手先でするな」を忘れることなく、柔軟な発想も取り入れて挑戦していく。これが大切です。
政孝さんとリタさんがモデルのドラマ「マッサン」が放送され、ウイスキーに対する関心も高まっています。
ふたりの夢「ウイスキーが心豊かにする」を持ち続けたいと思います。
<完>
北海道新聞の夕刊に連載されたニッカウヰスキー第3代マスターブレンダー佐藤茂生氏の自叙伝から興味深いエピソードをご紹介します。
今回は、第8話から第11話(最終回)までです。
「私のなかの歴史~ウイスキーとともに」
○第8話 世界最高点 余市の新樽 熟成10年で
2001年「シングルカスク余市10年」がイギリスのウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」が主催した「ベスト・オブ・ザ・ベスト」という鑑定イベントで世界最高点を取りました。
この企画は世界のウイスキー市場が縮小していることに危機感を感じて開催されたものです。
ウイスキーの世界で歴史上初めて行われたイベントでした。
イギリス、アメリカ、東京で合わせて62人が審査員になり評価しました。
まさか日本のウイスキーがトップになるとは誰も予想していなかったでしょう。
1986年くらいからコストの高い新樽を導入し、エキス分が多く出る危険性から毎年サンプリングして様子を見ました。
受賞したシングルカスクも新樽熟成です。
5年目には従来のものにない、複雑でこくがあり、華やかさのあるものになりました。
甘い香りも出てきました。
あと5年おけば立派なものになると考え、そのまま熟成を続ける決意をした樽でした。
新樽は暖かい気候ではエキス分が出過ぎ、いいウイスキーはできません。
余市という厳しい自然と風土が、いいウイスキーを造り上げたのです。
○第9話 日本の躍進 品質を評価 世界に愛飲家
2003年以降、ロンドンやパリ、リスボンなどのウイスキーライブで試飲してもらい説明しました。
品質の良さを高く評価されました。
ヨーロッパでもニッカ製品が伸びており、特にフランスが好調で「フロム・ザ・バレル」は日本より売れているほどです。
現在も声がかかればウイスキーセミナーに出たりしています。
セミナーの参加者に若い女性が増えてきています。
男性以上に香りに魅力を感じています。
樽での熟成による独特の香り、本当にナチュラルな香りに魅せられているようでした。
新しい時代のニーズに触れた機会でした。
○第10話 スコッチの里 英の蒸留所に余市の風景
「シングルカスク余市10年」が世界最高点を獲得したことで、本格的なモルトウイスキー愛好家の集まり「ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(SMWS)」がニッカに目を向けました。
SMWSは1983年につくられた団体でイギリスを中心に世界中に3万人の会員がいます。
この団体のコレクション・ボトルに選ばれることは世界でも最高級のモルトウイスキーであることの証明になります。
2002年にSMWSの116番目のコレクション・ボトルにニッカのモルトウイスキーが認定された記念のパーティーがエジンバラで開催されました。
それまでコレクションに加えられたのはスコッチがほとんどで、他にはアイリッシュがあるだけでした。
竹鶴威さんに認定書が渡され、私はあいさつで竹鶴政孝さんの思想を引き継いでどういうウイスキー造りをしているかをお話ししました。
その後、威さん夫妻とスコットランドの蒸溜所巡りをしました。
1919年(大正8年)に政孝さんが最初に研修したロングモーン・グレンリベット蒸溜所を訪れました。
政孝さんがボイラー室の外壁の前で製造主任と一緒に写真を撮った写真が今も残っています。
威さんがその場所を見つけ、現在の工場長と一緒に写真を撮りました。
時代を超えた遭遇に皆さん感動しました。
キャンベルタウンでは、政孝さんが研修したヘイゼルバーン蒸溜所はすでに閉鎖されていて事務所だけが残っていました。
キャンベルタウンの海を眺めると、砂浜や岸壁の広がりなど余市の風景に通ずる思いがしました。
妻のリタさんと、ここで学んだ政孝さんも同じ思いがあったのではと想像しました。
余市は余市川からの川風、日本海からの海風、山から吹き下ろす山風、3つの違う風を受けながら樽が熟成していく。
それが余市独特の複雑なウイスキーを造ることになるのです。
○第11話 マッサンの夢 「心豊かにする」酒造りを
1995年にスーパーニッカ発売25周年を記念して「マイウイスキーづくり」が余市蒸溜所で始まりました。
1泊2日でウイスキー造りを体験してもらう企画です。
蒸留し、樽詰めした原酒を10年後に瓶詰めして1本プレゼントします。
自費で余市まで来てくれるか疑問でしたが、ふたを開けると予想以上に好評で話題になりました。
抽選待ちで、毎回申し込んでも当たらない人もいました。
マイウイスキー贈呈式では皆さん、涙を流さんばかりに感激し、贈呈ボトルを受け取ります。
厳しい時代でもブレンダーとして熟成を経て完成するウイスキーを丁寧に我慢強く知恵を出し、造り上げてきました。これが竹鶴政孝さん以来続くニッカのブレンダーの伝統です。
政孝さんが大事にしたニッカウヰスキーの原点、「トリックはない、小手先でするな」を忘れることなく、柔軟な発想も取り入れて挑戦していく。これが大切です。
政孝さんとリタさんがモデルのドラマ「マッサン」が放送され、ウイスキーに対する関心も高まっています。
ふたりの夢「ウイスキーが心豊かにする」を持ち続けたいと思います。
<完>