鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1001~氷平線、ブルース

2015-01-15 12:28:36 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「氷平線」「ブルース」です。

年が明けてから桜木紫乃の作品を2冊読みました。
「氷平線」と「ブルース」です。

「氷平線」は著者のメジャーデビュー作品集です。
夏でも半袖を着る機会が少ない暗く寒い道東の雰囲気を実によく表現した作品集でした。
多種多様な立場に置かれた男女を描く筋書きはこのころから見事だったのですね。
お気に入りは次の2編。

・雪虫
 酪農家に売られてきたフィリピーナの幼い嫁と主人公と愛人の三角関係が切ない。
 オール読物の新人賞を受賞作した作品だそうです。

・氷平線
 氷平線の流氷から身を沈めることで愛する者の身を守る女が切ない。
 海辺のあばら家で身を売って生活している女の設定は、他の桜木作品でも読んだ気がします。

次は「ブルース」。
正月休みに本屋さんで見かけました。
桜木作品は年末から「ホテルローヤル」「氷平線」と続いたのでしばらく読まないつもりでしたが、「新境地」「恰好いい男を描いた」「サイン本」という3つのコピーに惹かれて衝動買いしました。

8編の短編すべてに登場する男・影山。
彼は二枚目で影があり、金と権力を持ち、紳士的でセックスがうまい。
著者にとっての「恰好いい男」ってこういう男だったのですね。
何とも薄っぺらくて、とてもがっかりしました。
外見に左右されず中身で恰好いいかどうかを評価してほしかったです。
本書を選ぶときに、著者の思い描く「恰好いい男」に少しでも近づけたら、と思っていましたが失望しました。

本書は、最低辺の暮らしから成り上がっていく男をめぐる8人の女たちを描いています。
彼には両手の指が6本ありましたが、若いときに6本目を切断しています。
指を切断することによりコンプレックスから解放され、徐々にパーフェクトな男になっていきます。

「ホテルローヤル」では、同じ登場人物たちを時間を遡りながら何度も描いて人物の厚みを表現していました。
本書では8編すべてに影山が登場しますが、残念ながら彼の心の底は伝わってきませんでした。
彼は女にとって都合のいい「格好いい男」としてだけの存在だったように思います。
いったい影山は何者なのか?
もしかしたら彼は女たちの幻想の産物であり、彼をめぐる8人の女たちこそ実は本書の主人公!というあたりがオチなのかもしれません。
それぞれの境遇から性愛に溺れ、自立していく女たちを描いた作品といえます。
女性による女性のための小説であり、男性の入り込む余地のない作品でした。

最後に。
「ラブレス」でみせたラストシーンの衝撃。
とことん不幸に見えた女が実は幸せだったことを描き切ったあの力が著者に戻ることを願います。


コメント
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