かっての京都にはジャズ喫茶やロック喫茶の名店が沢山あったが、今では数えるほどに減ってしまった。紅葉見物の帰りに出町柳駅前にあるジャズ喫茶『Lush Life』を13時頃訪れる。カウンターのみ8席くらいの小さな店だ。
開店一番乗りと思ったら既に年配のひとりオヤジがふたりもいた。日課のように開店を待って通っているかのようだ。愛想のよい美人のおかみさんの『コーヒーでよかったですか?』やさしい言葉に促されてホットコーヒー400円也を注文。店にある大型のミルで挽きたてのコーヒーをいただきながら、ジャズを聴く。
(一番奥が後から現れたマスターの指定席だ。壁はLP棚になっている。アリー・アメリカンな椅子がゆったりとした午後のひとときを演出する。リスナーのストイックな姿勢が当時のジャズ喫茶の雰囲気を今に伝える。)
ジャズのスタンダードの名曲Lush Life とは『豊潤な人生』というような意味らしい。決して日本人が思い描きがちな Rush Life『寿司詰めの通勤人生』などと誤解してはいけない。
この店はLPにこだわっているようだ。マスターの好みだろうか音楽は小生もあまり聴かない50年以前の録音と思われるものがかかっていた。最初にかかったのは全く自信がないがファッツ・ウォーラー辺りだろうか?次はルイ・アームストロングのようだったようだ。店内に陳列されているジャケットも古いものばかり。ホームページによると今年ダラー・ブランドを呼び寄せたとか。懐かしいふざけた名前だが、もう今では覚えている人も少ないのではないだろうか。
(巨大なスピーカーの上で薄っすらと色着くマッキントッシュの管球アンプ、そして京都の喫茶店ではよく見かけるノスタルジックな赤い業務用コーヒーミル、フジローヤルR440 )
この店を訪れたのは、拙宅と同じ30年前のスピーカーを使っているから。どんな音で鳴っているのか聴いてみたかったからだ。スピーカーはアルテック620A。パワーアンプは管球のマッキントッシュ、プリアンプも管球のマランツのようだ。どちらも60年代の物のようだ。かかっていたLPがあまりに古いこともあり、音の違いについては断言はできないが、明らかに拙宅とは違う音色だった。
深煎りで濃い目のコーヒーはうまい。更にオヤジと若手がひとりで来店。どうもここはマスターが自分が気に入ったジャズを聴くためにある店のようだ。したがって自然と私より更に上の世代が集まる。店名からコルトレーンを想像していたが60年代にはとても到達しそうもない雰囲気だった。あと空調システムの空気の流れにのって小生の苦手なタバコの煙が横方向に来てマイッタ。
久しぶりに商売っ気のない気骨のありそうなジャズ喫茶というものに足を踏み入れたことで遠い昔の学生時代に想いを巡らせれたのであった。いやおそらく商売という位置づけではないだろう。あの横浜の老舗ジャズ喫茶「ちぐさ」も来年1月で店を閉めるそうだ。こちらは老舗だけに常連さんはもっとお年寄りばかりだそうだが、寂しい限りだ。