世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
愛憎の相克
フリーダ・カーロ(Frida Kahlo)は、現代メキシコ絵画を代表する女流画家。いろんな本が出版され、映画にもなっている。
こんなにもカーロが有名なのは、その波瀾に富んだ人生のときどきに、自身がこうむった不条理な苦悩を描き続けたからだろうか。彼女の絵は、その人生と切り離して、壁に飾っておけるようなものではない。強い意志をもってしっかりと、だが絶望と諦観をもって無気力に、自己を見つめる自画像。
……でもまあ、シュルレアリスム全般が好きでない私は、メキシコ先住民族的で伝統キリスト教的な幻想ムードを醸しつつも、やっぱりシュールなカーロの絵は、あまり好きじゃない。
彼女の絵には惹かれないが、かと言って人生にも惹かれない。
愛とか苦悩とか情熱とか運命とか、カーロの人生の周囲にはそんな言葉が飛び交っている。もちろんそれらの愛なり苦悩なりは真実のものだと思う。
が、それらをそのような形で生きたということ、そのような形で表現したということ、ここに、カーロの錯綜したナルシスティックな情念を感じてしまう。
自画像のカーロは、一文字に繋がった蛾のような眉毛に、うっすらと口髭まで生えた、濃い顔をしている。実際はすごぶる美人で、繋がった眉毛も「私の額の小鳥」と気に入っていたという。
美人な上に聡明。が、天は二物どころか、平気で三物を与える。それが6歳で患った小児麻痺のために残った、右脚の後遺症。彼女はパリでもニューヨークでも丈の長い民族衣装を着て人気を呼んだというが、これも萎えた脚を隠すためだった。
美と才知に加えて、障害のせいで生じた孤独と内省と自意識。メキシコ革命後の激動と重なる、若く美しい青春。アナーキーな知的グループ“カチュチャス”に入り、リーダーのアレハンドロに情熱的な恋をする。
が、18歳のとき、乗っていたバスが路面電車と衝突し、串刺しにされて、下腹部をずたずたに損傷するという、悲劇の事故。以降、生涯にわたって三十数回もの手術が続く。
アレハンドロとは破綻。病室の天井につけた鏡に映る自分を、ベッドの上で描いたのを機に、独学で絵を描くように。
文化人サークルに出入りし、メキシコ共産党にも入党したカーロは、そこで、メキシコ・ルネサンスの牽引者、壁画家ディエゴ・リベラと出会う。やがて結婚。このときカーロは22歳、リベラとは21歳の年齢差。加えて「美女と野獣」と称される容姿の差。
リベラは野獣というよりは醜く太ったガマガエルで、おまけに激しやすく、女癖が悪く、嫉妬深い。が、それらを美点と思わせるカリスマを持つ“人物”だった。
損傷した下腹部にこんな巨漢が乗って、大丈夫なんだろうか。カーロは何度か妊娠するが、後遺症のためにすべて流産。やがて、リベラが妹に手を出していると知る。
仕返しとばかりに、カーロもまた奔放な恋愛に走る。彫刻家イサム・ノグチや、亡命中の革命家レオン・トロツキー、リベラの女たちとも同性愛関係を持つ。……ラテンの愛憎の情熱って、ついていけん。
リベラとの別居、離婚、再会、和解、そして再婚。名声の確立と、健康の悪化。右脚切断後は自殺を考えるようになる。
肺炎で死去。享年47歳。
以上、私には理解しづらい画家。カーロのDVDでも観てみようかな。
画像は、カーロ「自画像」。
フリーダ・カーロ(Frida Kahlo, 1907-1954, Mexican)
他、左から、
「自画像」
「テワナ衣装の自画像」
「髪をほどいた自画像」
「根」
「死の仮面をかぶった少女」
Bear's Paw -絵画うんぬん-
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