読書癖

 
 私の下の弟は活字を読まない。それでどうやって修士号を取ったのかは知らないが、とにかく読まない。自他ともに認める、活字読まへん人間。その代わり、授業などの説明は、一度聞くだけですべて記憶する。
 こいつが本を読まなく育ったのは、多分私のせいだと思う。私は弟がかなり大きくなるまで、本を読み聞かせてあげていた。よく、いかにも面白い展開となりそうなところで、読むのをやめて、からかった。弟は小学校に上がるまで、本を上下逆さにして見る癖があった。読む私の対面にいる弟にとっては、「僕、いつもこうやって見てるもん」というわけだった。

 私も子供の頃は、読書の習慣というものがなかった。本は読んだ。が、コツコツと読むことはしなかった。気が向いたらガーッと読むだけで、普段はあまり読まずにいた。漫画のほうが、よく読んだと思う。
 高校の頃まで漫画を描いていて、それまでは本もあまり読まなかったし、絵もほとんど観なかった。

 が、あるとき突然、漫画を描くのをやめてしまった。どうしてだか、自分でもよく分からない。
 そのときから、私のなかで絵と物語とが分離した。私は漫画の代わりに、日常的に絵を観るようになったし、本も読むようになった。その代わり、漫画にはもう戻らなくなってしまった。

 今じゃ、どこへ行くにも文庫本一冊を携えている。昨今では、ブックオフのような古本屋で、本は百円で手に入る。あるいは図書館で借りることもできるけれど、とにかく、本を読むのにお金はかからない。

 一旦、読書癖が付くと、本を読まずにいると却ってイライラするようになる。私が一番イライラしたのは、修士1年、赤ん坊だった坊をかかえていた頃。研究書だって、ろくに読む暇なんかないのに、読書なんてできやしない。う~。
 で、歯磨きの時間に本を読んだ。母が、「子供を産んだら、真っ先に歯が弱くなるから、虫歯にならないよう、きちんと磨きなさい」と言うので、お言葉に甘えて、朝晩5分ずつ歯を磨きながら、読んだ。確か、歯磨きタイムをつなげて、ロラン「ジャン・クリストフ」を読了したと思う。
 
 最近、読みかけの本があっちこっちにあるので、一度、全部読み切ってしまおうと思って集めたら、ハインリヒ・マンからモーリス・ルブランまで、7、8冊くらい出てきた。私ってば、こんなにいっぱい、掛け持って読んでたのね。ちょっと反省。
 で、今、読みさしの本を片付けてるところ。

 画像は、モネ「本を読む女」。
  クロード・モネ(Claude Monet, 1840-1926, French)
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