魔の国境越え、再び(続々々々々々々々々)

 
 車道を渡り、湾に向かう農道へと入って、延々歩く。農道だから、牛やら馬やら山羊やらの糞が落ちているのに、当の牛やら馬やら山羊やらが見当たらない。
 イタリア風の白い壁、オレンジの屋根の農家が一軒あって、そこに黒猫が日陰ぼっこをして寝そべっている。「猫!」と声をかけると、逆に犬が、庭先を囲う柵ぎりぎりまで走ってきて、ワンワンワンワンと吠え立てる。
 犬、お前は無駄に吠える元気があっていいねえ。こっちはもう何も言い返す気になれないよ。

 再び車道に出てしばらく歩いていると、黒眼鏡をかけた夏っぽい女性が勢いよく車を停めて、声をかけてきた。
「どこまで行くの? コーペル駅? よかったら次の交差点まで乗せてってあげるわ」

 地獄に仏! 大喜びの東洋人二人がいそいそと乗り込んだ途端に、車はビューンと走り出した。
「どこから来たの? 日本? どうしてスロヴェニアに来たの? そうね、スロヴェニアの自然は美しいわ。もう長いこと旅行しているの? そう、ロング・バケーションね! 次はどこに行くの? ピラン? いいところだわ」
 車を飛ばしながら、女性ははきはきと尋ねては答える。同じスロヴェニアでも、海が近くなると、人々は陽気な南国人っぽくなってくる。

 黒眼鏡の女性は、交差点で放り降ろし、
「ターミナルはこの道を真っ直ぐよ、そんなに遠くないわ! じゃあね、よい旅を!」と言うと、反対方向の道を走り去った。

 女性は、そう遠くない、なんて言ったけど、実際はかなり遠かった。今度の車道には、花と並木の植わった歩行者用の道があり、花々の向こうは一面の干潟が続いている。
 歩きに歩いて、ターミナルに到着した、そのときの安堵の気持ちといったら! バスは、私たちがターミナルに着いて2、3分後に走り出した。

 国境なんて、歩いて越えるもんじゃない。もうこれ以上歩くもんかと思ったけれど、このあと、日没までピランの町を歩いてまわった。

 画像は、コーペル、干潟。

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