連休は、行楽にも旅行にも行かなかったが、映画を観た。「海を飛ぶ夢(英題 The Sea Inside)」という映画(監督:アレハンドロ・アメナーバル監督、出演:ハビエル・バルデム、他)。
スペインの映画で、実話にもとづいたもの。ラモン・サンペドロは25歳の夏に海で事故に会い、首を骨折。以来、四肢麻痺となり、寝たきりの生活を余儀なくされる。生きる意味を模索し続けたが、26年後、尊厳死という結論に到る。
顔以外は動かすことのできないラモンだが、その表情が様々な思いを語る(初老のラモンを演じる俳優は36歳だそうだから、驚き!)。
彼を取り巻く人々もまた、様々な思いを持つ。が、それらは説明がましくなく、ただ淡々と展開される。
泣きながら部屋を飛び出すロサに、ベッドの上で、彼女を振り返ることさえできずに、ラモンが背を向けたまま吐き捨てるように言う。
「君はいい、逃げることができるんだから!」
が、想像の世界では、彼はいつでも自由に空を飛ぶことができる。開け放たれた窓から空に舞い、海にいるフリアのもとへと向かうラモン。
生とは義務ではなく権利であるはずだ、というラモンの言葉。ラモンにとって問題なのは、四肢に傷害を負っていることではなく、自分が、自分の基準で、自由に生きることができない、ということだった。
……「義務も遂行できない人間が、権利なんて言葉、口にするんじゃない」と、かつて私に説教した、某大学助教授ハーゲン氏の言葉の、なんとチンケなことか。
私も、夢のなかでは空を飛ぶことができる。ラモンのように窓から飛び立ち、滑空し、飛翔する。でも海上を飛ぶのは、私には恐ろしい。足の着く場所がないからだ。私は海を飛びたいとは思わない。
だから、海を飛ぶラモンにとって、海は自由の地なのだ。彼の自由を奪った海だけれど、なお彼は海に自由を求めた。
画像は、ヒッチコック「海を見渡す」。
ジョージ・ヒッチコック(George Hitchcock, 1850-1913, American)