元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミッドナイトスワン」

2020-11-01 06:55:35 | 映画の感想(ま行)
 本年度のワーストワンを争うこと必至の駄作である。話が支離滅裂であるだけではなく、各キャラクターにまったく感情移入できず。果ては不快なシーンの連続と、評価できる箇所がほとんど無いという惨状だ。明らかに企画段階で製作を差し止めるべきネタであり、いったいプロデューサーは何をやっていたのかと、文句の一つも言いたくなる。

 新宿のニューハーフショークラブで働くトランスジェンダーの凪沙のもとに、故郷の広島から姪の一果がやってくる。中学生の彼女は、実家でのネグレクトに耐えきれないため、期間限定で凪沙に預けられることになったのだ。伯父の姿を“男性”であったときの写真でしか知らなかった一果は戸惑うが、とりあえず共同生活を始めることにした。やがて凪沙は、一果にはバレエの才能があることを知る。そのため、何とかして彼女の夢を叶えるために奔走するのだった。



 まず、いくら親戚とはいえ狭いアパートで一人暮らしの独身男に一果が身を寄せるという設定には無理がある。そして、最初は反発しあっていた凪沙と一果がどのようなプロセスで心を通わせたのか、そのあたりが全く描けていない。一果にはバレエの経験があったらしいが、裕福ともいえない荒れた家庭環境にあって、いつバレエのレッスンを受けられたのか不明。中盤で、飲んだくれの母親が突然上京するあたりは面食らったが、それ以降の展開はもう滅茶苦茶だ。

 怪しげな男に貢いで身を持ち崩す凪沙の同僚や、ケガのためバレエを断念せざるを得なくなる一果の友人りんの運命、凪沙が転職して柄にもなく力仕事に挑戦するくだりなど、いくつものエピソードが散りばめられていながら、どれも尻切れトンボのまま放置される。そして、いつの間にか時が過ぎ、終盤には映画は取って付けたような愁嘆場に突入。凪沙と一果はどう考えても理に適っていない行動をとった挙句にラストを迎える。

 また、りんに誘われた一果が足を踏み入れる怪しげなフォトスタジオや、りんの家族のマンガチックな造形、ヤンキーの溜まり場みたいな東広島の街の風景、さらには後半に凪沙が被る不幸の描写など、不愉快極まりないモチーフがてんこ盛りで、大いに気分を害した。監督の内田英治はシナリオも手掛けているが、ドラマツルギーの何たるかが分かっていないと思われる。しかも多分に自己満足的な要素を詰め込み、観る者を疲れさせるばかり。

 主演の草なぎ剛はかなりの熱演だと思う。しかし、映画自体が斯様な状態なので、その努力が報われているとは言い難い。佐藤江梨子に根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲなどの顔ぶれも精彩を欠く。そしてヒドかったのが一果に扮した新人の服部樹咲で、ほとんど演技をしていない。これではただの“バレエの上手い女子”であり、映画に出すならばキチンとした演技指導が必要だった(りんを演じる上野鈴華の方が、いくらかマシ)。しかしながら、本作は世評は決して低くはない。やはり元SMAPとか、ああいう系列の者が出演する映画には“固定票”が入るのだろう。

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