元・副会長のCinema Days

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「タッカー」

2019-09-29 06:31:15 | 映画の感想(た行)
 (原題:Tucker)88年作品。正攻法で撮られた、堂々たる偉人伝。80年代以降のフランシス・フォード・コッポラの監督作品では、一番納得のいく出来であろう。題材自体も実に興味深く、鑑賞後の満足度は高い。

 1945年。第二次大戦が終わり、アメリカが新時代に向かって突き進もうという機運に溢れていた頃、デトロイト郊外の小さな街で自動車のガレージ・メーカーを経営していたプレストン・タッカーは、仲間と共に新型車タッカー・トーペードを発表する。高い性能と斬新なデザインはたちまち世間の耳目を集め、しかも巧みなPRが功を奏し、本格的リリース前から市場を席巻する勢いだ。



 しかし、ビッグ3と呼ばれる巨大自動車会社や、業界の既得権益に依存していた政治家達は一斉に反発。露骨な妨害工作を展開する。ついにタッカーは罠に嵌められて訴えられ、工場は閉鎖寸前となった。主張を通して裁判に勝つためには50台の新車を期日までに完成させなければならず、タッカーは窮地に陥る。

 自動車産業の中心であったアメリカでは、戦後いくつかのニューカマーがビッグ3の寡占状態に果敢に挑戦したが、いずれも退場している。だが、それらが手掛けた車は現時点でも魅力的に映る。「パック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズに使われたデロリアンなどはその代表だが、このタッカーというブランドは本作を観るまで知らなかった。そのエクステリアは先進的で、もしもブレイクしていたならば、自動車のデザインのコンセプトが根本から揺らいだことだろう。

 斯様なモデルを作り上げたプレストン・タッカーと仲間達は、ビッグ3の牙城は崩せなかったが、確実に産業史にその名を残したのだ。彼らにあったのは夢と希望だけ。タッカーは困難にぶち当たっても、前しか向かない。観る者によっては“ドラマに陰影が足りない”と感じるのかもしれないが、コッポラの悠々たる演出は批判をねじ伏せるだけのパワーがある。

 主演のジェフ・ブリッジスは好演で、彼のフィルムグラフィの中では上位を占める。ジョアン・アレンやマーティン・ランドー、マコ、クリスチャン・スレーターといった脇の面子も申し分ない。敵役としてジェフの父親であるロイド・ブリッジスが登場するのも嬉しい。ヴィットリオ・ストラーロによるカメラ、凝りに凝ったセット、ジョー・ジャクソンの音楽、いずれも要チェックだ。

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