元・副会長のCinema Days

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「ダントン」

2024-01-21 06:07:53 | 映画の感想(た行)
 (原題:DANTON)82年ポーランド=フランス合作。先日観たリドリー・スコット監督作「ナポレオン」は低調な出来だったが、そこで思い出したのが近い時代を描いたこの映画。主人公は言うまでもなく、フランス革命で活躍した代表的な政治家ジョルジュ・ダントンだ。監督はポーランドの名匠アンジェイ・ワイダで、明らかにこの歴史上のイベントに母国の激動の戦後史を重ね合わせている。それだけに切迫度は高く、見応えがある。

 1793年にフランスの実権を握った公安委員会の首班マクシミリアン・ロベスピエールは、敵対する者たちを次々にギロチンにかけるという恐怖政治を始めた。ダントンは一時期政治から離れていたが、この有様に危機感を抱いた彼はパリに戻る。ジャーナリストのカミーユ・デムーランと共同し“ヴュー・コルドリエ”紙を発行し、リベラルな主張を展開。大衆の支持を得る。これを面白く思わないロベスピエールは、革命裁判所を通じてダントンを逮捕する。女流作家スタニスワヴァ・プシビシェフスカ原作の「ダントン事件」の映画化だ。



 作品内では、ロベスピエールが独裁者でダントンが市民派といった単純な区分けはされていない。両者の決裂が表面化したホテルの一室での食事会のシーンに代表されるように、2人がやっているのは単なる勢力争いだ。理念や政策論などは脇に追いやられ、覇権をめぐる駆け引きに終始する。

 ダントンはもちろん、ロベスピエールだって政治家を志していた頃には崇高な理想を抱いていたはずだ。それがいざ権力を手にしてしまうと、保身と権益にしか考えが及ばなくなる。もちろんこれは「大理石の男」(77年)や「鉄の男」(81年)を撮ったワイダが抱く、革命の美名の裏に潜む矛盾をあぶり出したものだろう。そして民衆の立場を忘れたかのようなパワープレイが行き着く先は、破滅しかない。ダントンがそれを悟ったのは“終わり”に近付いた時点だったし、ロベスピエールも同じ道をたどる。

 主役のジェラール・ドパルデューは渾身の演技でスクリーンから目が離せない。ボイチェフ・プショニャックやパトリス・シェロー、ロジェ・プランションら他のキャストも万全だ。また、バックに流れるジャン・プロドロミデスによる現代音楽が凄い効果を上げている。第8回セザール賞監督賞をはじめ多くのアワードを獲得。本作に比べれば、くだんのR・スコット監督のナポレオン映画が如何に問題意識の欠片もない凡作であるか、つくづく分かる。

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