元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「AWAKE」

2021-01-11 06:53:53 | 映画の感想(英数)

 各キャストは良くやっており、ストーリーもソツなくまとまっているが、今一つ突き抜けたものが無い。また、舞台背景に関してちゃんとリサーチしたのだろうかと疑われるような箇所があり、諸手を挙げての評価はできない。ただし、こういうネタを採用したこと自体は先見の明がある。今後はこういった題材が、メインテーマはもちろんサブプロットでも数多く取り上げられるようになるのだろう。

 プロの将棋指しになるため新進棋士奨励会に入った清田英一だったが、周りのレベルの高さについていけなくなる。特に同世代の浅川陸に圧倒的な力の差を見せつけられた彼は、プロ棋士になる夢を諦める。だが、それまで将棋しかやってこなかった英一は何をしていいのか分からない。とりあえず大学に入ったものの、友人もできずに日々を無為に送るばかり。

 そんな時、彼はコンピューター将棋と出会う。将棋ソフトの自由闊達な手筋に魅了された英一は、大学のAI同好会に入部。最強の将棋ソフトを作るため、プログラミングの勉強を始める。やがて英一の作ったソフトは評判を呼び、プロ棋士との対抗戦が企画される。その相手は、今や若手実力派棋士として売り出し中の陸だった。2015年に実際に行われた、プロ棋士とコンピューターとの対局“電王戦”に着想を得たドラマだ。

 監督はこれがデビュー作になる山田篤宏。母親のいない英一が将棋に興味を持ち、地域で天才少年として持て囃されるが、奨励会に入って厳しい現実に打ちのめされるという筋書きは申し分ない。そして奨励会を抜けた彼が虚脱状態になるのも、よくわかる。そして将棋ソフトの開発に専念するようになるあたりも、違和感はない。

 しかし、どうも展開が一本調子なのだ。実録ドラマではないのだから、いい意味でのケレンを挿入しても構わないと思う。AIにしか出来ないような、思い切った必殺技(なんじゃそりゃ ^^;)を繰り出す遊び心があってもいい。一方では、受けて立つ将棋連盟およびプロ棋士たちの立場は深くは追及されていない。長年積み上げた伝統と誇りが“たかが機械”の登場により揺らいでいく葛藤はあったと思うのだが、取材不足のせいか描出されていない。陸が対局に応じたのも“相手が幼馴染だった”という一点で乗り切ろうとしているように見え、説得力に欠ける。

 さらには、対戦の決着の付け方はかなり無理筋で、いくらその次に“感動的”みたいな場面を用意していても、鼻白む思いがする。とはいえ、人間でしかできないとされる分野にAIが進出してゆくというモチーフは、かなり有効だ。主演の吉沢亮は普段の彼とは打って変わったオタク野郎を違和感なく演じており、若葉竜也や落合モトキ、寛一郎といった他のメンバーもいい味を出している。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「バッド・ジーニアス 危険... | トップ | 「神田川淫乱戦争」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(英数)」カテゴリの最新記事