元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「濡れる美人妻 ハメられた女」

2007-02-24 07:49:27 | 映画の感想(な行)
 2001年製作の新東宝配給によるピンク映画。生きることに疲れたホームレスの主人公(松原正隆)が焼身自殺を図るが失敗。あてどなく街をさまよう彼が遭遇したのは、排気ガスを車内に引き込んで自殺しているサラリーマンだった。しかも、その男は彼と瓜二つ。彼は男に成り済まし、男の妻(沢木まゆみ)が待つ家に戻る。

 死んだ男は鬱病気味で、治療のため長い間家を出ていたという。突然の夫の帰宅に喜ぶ妻だが、彼は次第に周囲を騙している自責の念にかられるようになる。監督はピンク映画の俊英の一人と言われる今岡信治で、彼の作品を観るのはこれが初めてだった。

 何となく江戸川乱歩原作・塚本晋也監督の「双生児」を思わせる設定だが、話はサスペンス方面へは行かない。ここで描かれるのは、心の隙間を埋められず悶々と苦しむ登場人物たちの内面である。

 ひょんなことから家庭を持つことになったが、後ろめたさと自らの羊頭狗肉ぶりに悩む主人公の孤独。心の病のために愛する妻から身を引き、自己嫌悪に落ち込んでいった男の孤独。夫が去ったのは自分のせいではないかと悩み、人生に半ば諦念を抱くようになる妻の孤独。それぞれの苦悩を決して声高にならず抑制された語り口で静かに(それでいて容赦なく)綴る今岡監督の力量には非凡なものを感じる。

 ディテールが秀逸で、特に弁当屋で働く妻の生活感がリアル。寒色系の画調と繊細な音楽も効果的だ。また、救いのあるラストは作者が登場人物たちを信じている証だろう。今岡監督には一般映画も撮って欲しい。
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