元・副会長のCinema Days

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「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」

2024-07-22 06:19:10 | 映画の感想(英数)
 (原題:ONE LIFE)これは良い映画だ。取り上げられた題材自体が秀逸だし、ドラマの組み立て方と終盤の盛り上げも及第点。加えてキャストの好演と時代考証や美術などのエクステリアも目を引く。小規模の公開ながら、見逃せないような存在感を発揮している。

 1938年、英国人の証券マンであるニコラス・ウィントンは、ナチスから逃れてきた多くのユダヤ人難民がプラハで悲惨な生活を強いられていることを知る。そこで子供たちだけでもイギリスに避難させるため、志を同じくする者たちと組織を結成し、里親探しや資金集めに没頭する。ニコラスとその仲間は子供たちを次々と英国行きの列車に乗せていくが、ついに開戦の日が訪れ、ナチスはプラハに侵攻する。戦後、退職して妻と隠居生活を送っていたニコラスに、BBCのテレビ番組から出演の依頼が舞い込んでくる。実話を元にしたドラマだ。



 主人公の行動はオスカー・シンドラーや杉浦千畝に通じるものがある。だが、ナチスの理不尽な遣り口に憤りを覚えていたのは彼らだけではないはず。誰だって悲惨な目に遭っている者たちが身近にいれば、助けたいと思うものだ。しかし、それを実行に移すのは並大抵のことではない。ヘタすれば命の危険にさらされる。だからこそ、ニコラスの功績は注目されるのだが、本作ではイデオロギーや政治論争などの“雑音”を省いて、主人公たちが純粋に義憤に駆られて事に及んだことを無理なく描いていることがポイントが高い。

 迫り来るナチスの脅威から紙一重で逃れるニコラスの振る舞いはサスペンフルで見応えがあるし、子供たちとの交流は心にしみる。そして映画はラスト近くに思いがけない見せ場を用意しており、ニコラスたちの善行が結果的に現代でも大きな影響を及ぼしていることを活写するのだ。

 ジェームズ・ホーズの演出はまさに横綱相撲とも言えるもので、展開に緩みが無い。戦後のニコラスを演じるアンソニー・ホプキンスは当然見事なものだが、若い頃の主人公に扮するジョニー・フリンのパフォーマンスも光る。レナ・オリンにマルト・ケラー、ジョナサン・プライス、そしてヘレナ・ボナム・カーターと脇のキャストの充実ぶりは言うまでもない。

 クリスティーナ・ムーアによる美術とザック・ニコルソンの撮影、ジョアンナ・イートウェルの衣装デザインも見応えたっぷり。それにしても、世界的にキナ臭さが漂っている現在、ニコラスのような人材はますます必要とされているのだと、つくづく思う。
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