元・副会長のCinema Days

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「苦い涙」

2023-07-02 06:05:22 | 映画の感想(な行)
 (原題:PETER VON KANT)正直言って、面白いのか面白くないのかよく分からない映画だ。舞台劇のような意匠とキャラクターの濃さは確かに楽しめる。だが、ストーリー自体は大したことはない。作品の“外観”だけに着目すれば面白いのだが、それ以外はアピールしない。まあ、どれを重視するかによって評価は変わってくるが、個人的には曖昧なスタンスを取らざるを得ない。

 ドイツの有名映画監督ピーター・フォン・カントは、恋人と別れたばかりで生きる気力を失っていた。ある日彼の住むアパルトマンに、親交のある大女優シドニーがアミールという役者志望の青年を連れて訪ねてくる。ピーターはアミールのエキゾティックな美しさに心を奪われてしまい、彼を自分のアパルトマンに住まわせ懇ろな間柄になる。同時に、アミールを映画界で活躍できるように各方面に口を利いてやるのだった。ドイツのライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が72年に手がけた「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」(私は未見)の、フランソワ・オゾン監督によるリメイクだ。



 同性愛をネタにしたシャシンだが、聞けばファスビンダー版は女性同士の色恋沙汰を描いたのに対し、本作は男性同士のそれに切り替えているとか。だからというわけでもないだろうが、作劇はけっこうコミカルで笑える場面もある。しかし、話自体は予定調和で面白味に欠ける。オゾン監督としても肩の力を抜いたライトな仕事と割り切っているようで、いつもの辛辣さは控えめだ。対して、舞台装置は実に凝っている。

 カメラは主人公のアパルトマンからほとんど出ないが、その映像の練り上げは注目されよう。家具や調度品の数々には神経が行き届いているし、部屋全体の空気感も見事だ。そしてキャストが濃い。ピーター役のドゥニ・メノーシェは年下の男に振り回されるダメおやじぶりを見せつけ、対するアミールに扮するハリル・ガルビアも若さに似合わぬ海千山千な役柄を快演。そしてシドニー役のイザベル・アジャーニの、年齢不詳な妖艶さは圧巻だ。

 ピーターの片腕のカールに扮したステファン・クレポンも、一言もセリフを発しない怪人物を絶妙に表現。さらにはファスビンダー作品の常連だったハンナ・シグラも顔を見せるのだから嬉しくなる。ただし、舞台がドイツなのに全員がフランス語でしゃべっているのは違和感がある。ここはフランスに舞台を移し替えるべきだったと思う。

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