元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「クレイジーズ」

2010-12-01 06:26:21 | 映画の感想(か行)

 (原題:THE CRAZIES )可もなく不可もなしのホラー編である。元ネタになったジョージ・A・ロメロ監督の「ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖」(73年)は観ていないので、この映画がどれだけ本来の主題を打ち出しているのか分からないが、本作単体として評価すれば凡作の域を出ないだろう。

 アメリカ中西部の田舎町に生物兵器を乗せた軍用機が墜落。たまたまそこが水源となる川の上流であったため、漏れ出したウイルスを含む水道水を飲んだ町民はたちまち凶暴化し、あたりはパニック状態となる。事件を隠蔽しようとする軍当局は、町全体を隔離して焼却しようと企む。保安官とその身重の妻をはじめとする数人が、必死の脱出を試みるというのが粗筋。

 出ているのがティモシー・オリファントやラダ・ミッチェルといった二線級のキャストで、監督のブレック・アイズナーの腕も凡庸。何となく以前観た「ゾンビランド」にも似た設定で、展開は予想通りだし、目立ったホラー演出も無い。ただ観る者をイライラさせるようなテンポの悪さはあまりなく、その意味では“安心して”スクリーンに対峙出来るところが取り柄であろう。

 この筋書きであえて映画的趣向が提示可能な箇所があるとすれば、ウイルスに感染して“発病”するまでに48時間ほどの潜伏期間があるというプロットだと思う。途中、乱暴な性格の保安官補が感染を疑われて主人公が疑心暗鬼になるくだりがあるが、残念ながらあまり突っ込んで描かれない。もうちょっと保安官と行動を共にする人数を増やして、“誰が感染したか分からない”といった疑惑が渦巻く心理サスペンス仕立てにしたら、かなり面白くなっただろう。

 さて、前のジョージ・A・ロメロ版はベトナム戦争がアメリカ社会にもたらす悪影響をバックグラウンドにしたらしいが、わざわざ現在リメイクするならば、なぜ今日的なネタを織り込まなかったのか疑問だ。イラク戦争とか逼迫している内政とか、いくらでも題材はあったはずである。
コメント
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