元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」

2010-12-12 07:15:15 | 映画の感想(さ行)

 題名からは他愛のない“お手軽映画”にも思えたが、実際観てみると意外にも楽しめた。何より題材が面白い。洋の東西を問わず、昔から裁判所を舞台にした作品は山のようにあるが、傍聴人がドラマの中心になって活躍する映画なんて聞いたことがない。まさに本作はテーマ設定において屹立した個性を獲得していると言えよう。

 売れないライターの南波は、強引な女プロデューサーから“愛と感動の裁判映画”の脚本を依頼され、取材のため長期間裁判の傍聴をするハメになる。そこで傍聴マニアの3人組と親しくなり、裁判の段取りの面白さを知ることになるのだが、キレイな女検事から“アナタたちは高見の見物で、さぞかし楽しいでしょうね!”とのキツい一言を浴びせられたのをきっかけに、傍聴人の立場から何か出来ないかと思うようになる。

 やがて南波たちは、放火事件の二審で冤罪を訴える若者とその支援者を知り、彼らなりのアプローチで弁護側のフォローを勝手に始めるのだった。

 とにかく、傍聴側から見た裁判の様子が面白い。当然テレビの裁判物に出てくるような大事件ばかりではなく小さな案件もちゃんと審議されるのだが、その内容がアダルトビデオの万引き犯とか、大根で友人を撲殺したサラリーマンとか、歯が痛かったのでシャブに手を出した女とかいった呆れるようなものばかり。

 法廷側の連中にしても、ワイドショーのノリで審議を進める女判事や、女子高生が団体で傍聴人席にいるとやたら張り切る裁判長とか、傍聴人の奇態な服装が気になって仕事に身が入らない弁護人など、ヘンに生臭いのが笑える。

 原作は北尾トロによるエッセイだが、戯画化されている部分があるにせよ各モチーフは作者がリサーチした事実をヒントにしているためか、いかにも実際ありそうなのが面白い。南波たちの“作戦”がこれまたケッ作で、硬軟取り混ぜたありとあらゆる手口を使いながら、最終的には傍聴人という“責任を取らなくて済む立場”から一歩も踏み出さないのがアッパレかつ痛快である。

 豊島圭介の演出は緩い部分もあるが、最後まで飽きさせないだけのメリハリは付けている。主演の設楽統をはじめ螢雪次郎、村上航といった傍聴側の面々はヴァラエティに富み、傲慢なプロデューサーに扮する鈴木砂羽の怪演も楽しい。ただ女検事役の片瀬那奈は、もうちょっと見せ場があってもよかった。人を食ったラストの処理を含めて、観て損のない娯楽編だと思う。
コメント
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