元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「男と女」

2010-12-27 06:38:01 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Un Homme Et Une Femme )66年作品。クロード・ルルーシュ監督の代表作にして、第19回のカンヌ国際映画祭大賞受賞作。私は今回のリバイバル公開で初めて観た。公開当時はスタイリッシュな雰囲気と映像で話題をさらったらしいが、現時点でも十分にモダンでオシャレである。それどころかこれ以上にファッショナブルな映画は、今もほとんど存在しないのではないだろうか。

 パリ郊外にある寄宿舎で、偶然出逢った男と女。二人ともそこに子供を預けていたのだ。女の夫はスタントマンだったが、撮影中に殉職していた。そして男の最愛の妻も、夫のレース事故を悲観して自ら命を絶っている。その心の傷が癒えない二人だが、互いにときめきを感じて手探りで近付こうとする。

 主人公達が怖い物知らずの若者ではなく、人生の哀歓を知っている中年男女だというのが良い。すべてを忘れて恋に身を任せられるほど若くはなく、背負っているものも大きすぎる。ただ、このまま子供のためだけに人生を費やしても良いと思い込んでもいない。愛を求める想いがストレートにではなく、一歩ずつ手順を踏んで進んでいく、その味わい深さ。



 成就したと思ったら、昔のしがらみから抜け出せない自分に気付いたりもする。それでも、乗り越えられると信じている彼らと作者の一途な気持ちが、観る者を引っ張ってゆく。

 ハッキリ言って、ストーリーはありきたりだ。でも、人生なんてほとんどが“ありきたり”なのである。その“ありきたり”の中にドラマがあるのだ。平易な筋書きを珠玉のラヴ・ストーリーに仕上げるルルーシュの演出と、ピエール・ユイッテルホーベンの脚本には舌を巻くばかりだ。

 そして男の職業がカーレーサーであり、女は映画の仕事に就いている。ヴィジュアル的なアピール度が高い素材だが、浮ついた描写は一切ない。地に足の付いた捉え方をしているからこそ、違和感を覚えないのだ。

 主演のアヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンも実に絵になる。二人とも飛びきりの美男美女ではないのだが、渋さと円熟味を前面に打ち出したパフォーマンスで魅了する。さらにパトリス・プージェのカメラと映画音楽史上に残るフランシス・レイの名スコアとのコラボレーションは、まるで夢を見ているかのような陶酔感を与えてくれる。

 カラーとモノクロが交錯する映像は、一説にはフィルムの調達状況からやむを得ずそうなったらしいが(笑)、巧みな編集はそれをまったく感じさせない。何度でも観たくなる恋愛映画の傑作で、良質な映像ソフトを保有したくなるほどだ。とにかく、スクリーン上で接することが出来て本当に良かったと思う。
コメント
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