元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夢追いかけて」

2010-10-01 06:40:45 | 映画の感想(や行)

 (英題:The Dreamer )アジアフォーカス福岡国際映画祭2010出品作品。前年(2009年)の同映画祭で公開された「虹の兵士たち」の続編だが、前作のクォリティをまったく落とさずに味わい深い映画に仕上がっていたのには感心した。

 前回に引き続き、インドネシアのブリトン島に住む三人の子供達の成長物語が綴られる。だが、映画は主人公格の少年が成長し、希望に胸を膨らませて大学を卒業したもののロクな仕事がなく、結局は郵便局員としてうだつの上がらない日々を送っているところから始まるのだ。彼の回想により、中学・高校時代に一緒に過ごした友人達のことが描かれる。

 ヘタをすると“子供の頃はいろいろ夢があったが、大人になってしまえば手近な職業に就き、そこそこの人生を送るものだ”という退屈な筋書きを追っていると思われるのだが、そうではない。彼は逆風が吹いているような生活から、反転攻勢を掛けるのだ。その原動力となるものこそ、少年時代の体験である。

 中学校の頃に疎遠だった叔父が亡くなり、主人公の家でその息子を引き取ることになる。同い年のいとこと一緒に学校に通うことになるのだが、彼は口が達者で破天荒な人物ながら性根は実に優しい奴だった。ちょっとトロい感じのクラスメートとも仲良くなり、3人は勉強するときもイタズラに精を出すときも一緒に行動する。

 彼らを取り巻くエピソードはどれもハートウォーミングだ。教育熱心で生徒を信じ切っている担任教師や、厳しいけど面倒見の良い校長先生、主人公達をいつも見守る父親など、周りの大人にも恵まれている。たぶんこれは監督のリリ・リザをはじめとする作者達の“願望”も入っているのだろう。でもそれは決してウソっぽく見えない。

 現実には誰しもが有意義な十代を送れるはずがないのも確かだ。しかし、いくら面白くない人生を歩んでいると思っていても、貴重な出会いというものは必ずある。それを糧にして生きればどんな逆境でも乗り越えられるという、送り手のとことんポジティヴな姿勢が嬉しくなってくる作品だ。

 なお、この映画は三部作の二作目だという。次回が“完結編”だが、舞台をヨーロッパに移して主人公達がどういう生き方をしてゆくのか、今から楽しみである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする